僕と速水くんがすれ違いだして、何日がたったのだろう?
相変わらず、氷室くんは、昼休みになると、僕を捕まえて、学校内のどこかで二人っきりになる。
次第に僕は、『これじゃいけない』って、思うようになってきた。
だって、僕が好きなのは、氷室くんじゃなくて、速水くんなのだから……。
速水くんには謝って、僕の気持ちを伝えよう。
でも、その前に氷室くんにきちんと言わなければ……。
「…あ、あのね、氷室くん……。」
僕は少しどもってしまった。
「何?寧々ちゃん。」
僕は意を決して、氷室くんに言った。
「氷室くん、ごめんなさい。氷室くんとは…付き合えない。だって、僕……、いや、オレが好きなのは……。」
僕がそこまで言いかけた時だった。
「速水。あいつのことが寧々ちゃんは好きなんだよね?」
僕はコクりと頷いた。
氷室くんは、少し悲しそうな顔をしていたが、
すぐに無邪気な笑顔を、僕に向けて、
「分かってたよ。寧々ちゃんの気持ちぐらい……。でも、それでも、俺は、寧々ちゃんと一緒にいたかった。」
そう言った。
「今まで俺に付き合ってくれて、ありがとう。もうあいつのところに戻ってもいいよ。」
そう言う、氷室くんの顔は清々しく、晴れやかだ。
何か、吹っ切れたような感じだった。

僕は速水くんを捜していた。
でも、なかなか見つからない。
校内いくら、探しても、見つからなかった。
(今日は家に帰ってしまったのかな?)
僕がそう思っていた時だった。
裏庭に速水くんが立っていた。
声をかけようとして、ドキリとした。
速水くんは一人じゃなかったからだ。
柊木つかさちゃんが一緒にいた。
何やら、楽しそうに二人して、笑いながら、話していた。
僕はその光景を目の辺りにして、胸がズキンズキンと痛くなってきた。
そして、そっと踵を返すと、元きたところを帰っていったのだった。

速水くんと柊木つかさちゃん。
(二人が並んで立つと、お似合いだなぁ。)
僕はそう思ったが、胸が痛かった。
(苦しい……。)
僕は初めて、『恋』が、楽しいだけじゃないことを知った。

そして、ある日曜日。
(速水くんからだ。)
メールがきていたので、見たら、
『今日、俺んちに来い。』
それだけ送られてきていた。
僕は、少しだけ迷ったが、速水くんの家に行くために用意をし出した。
(これでよしっと。)
自分の姿を鏡で見て、改めて思う。
僕は今、女の子の姿で、『寧々ちゃん』なんだと……。
今は女の子だからいい。
速水くんに抱きしめてもらったりするのは、不思議なことじゃない。
(でも、『元の姿』に戻った時、僕と速水くんは一体、どうなるんだろう?)
『元の姿』に戻りたくないワケじゃない。
だけど、速水くんと柊木つかさちゃんの二人の姿がちらついて、僕は、初めて、『元の姿』に戻ることを迷い始めていた。

久しぶりに速水くんの家の前にいた。
(しかし、いつ見ても、立派な家だなぁ。)
と、僕はそう思っていた。
すると、速水くんが現れた。
「速水くん……。」
僕はそれだけ言うと、ふにゃりと顔を崩し、泣いて、
「ごめんなさい……。」
そう言っていた。
すると、速水くんは、
「いいから、中に入れよ。」
そう言って、泣く僕を、家の中に入れてくれたんだ。

ここは速水くんの部屋。
僕は速水くんに抱きしめられながら、舌で涙を拭ってもらっていた。
「…は…速水くん……。」
僕はドキドキいう鼓動が速水くんに伝わっていると思うと、恥ずかしくなる。
でも、ドキドキしているのは、僕だけじゃない。
速水くんもしてる……。
「速水くん……。ごめんなさい……。」
僕がそう言うと、
「もういいって言ってるだろ?」
速水くんは、そう言うと、僕のおでこに軽くキスをしたんだ。
それはとても優しいキスで……。
僕はとても幸せな気分になったんだ。

「僕、速水くんに言わないといけないことがあるの。」
「何だよ。」
速水くんはそう言うと、僕を見つめてきた。
ドキンッ、ドキンッ、ドキンッ、ドキンッ。
僕は速まる鼓動を感じながら、言おうと思った。
僕の『想い』を速水くんに……。
氷室くんにも言ったんだ。
本人にも、きっと言えるはず……。
「僕は速水くんのことが好きです。」
言った。
とうとう伝えてしまった僕の『想い』。
速水くんは、一瞬、驚いた顔をしたが、
「それは『友達』としての『好き』じゃないんだよな?」
念を押して、そう聞いてきた。
「うん。」
と、僕はコクりと頷きながら、そう返事をしていた。
「やりーっ!!」
速水くんは、僕をギュッと抱きしめると、さも嬉しそうに無邪気な笑顔を見せた。
それは僕が初めて見る速水くんで、僕はドキンッと胸が高鳴る思いがした。