あの日を境に、僕は、学校では氷室くんと過ごすことが多くなった。
今も、氷室くんからのおねだりで、膝枕をしている。
ボォーッと、フワフワッとした髪を撫でながら、僕は、速水くんのことを考えていた。
あれから、速水くんは僕に、学校では必要以上に近づいてこなくなってしまった。
(速水くんを怒らしてしまったのだろうなぁ。)
速水くんに謝ろうと思って、速水くんのほうへ行こうとする僕を氷室くんが、学校内のいろんな所へ連れ出してしまうのだ。
「寧々ちゃんの膝って、柔らかい。」
氷室くんは、満足そうに、幸せな顔をしていた。
やっぱり、そんな氷室くんを僕は無下にできなかった。
佑宇真と元通りの関係に戻ったオレは、放課後、今日も一緒に帰っていた。
家の前に着いたオレに、佑宇真は、
「ほら、これ、だいぶ遅くなったけど、誕生日プレゼント。あっ、こっちの大きいのは魔裟斗にな。」
そう言って、渡してくれた。
オレは素直に嬉しくて、
「ありがとう。こっちのは魔裟斗のヤツに渡しておくな。」
笑顔を向けて、そう言った。
すると、佑宇真は、
「久しぶりにお前の笑顔、見たな。」
心底、安心したような顔をして、そう言った。
その瞬間、オレと佑宇真の中にあった、気まずさが消え去っていた。
でも、その何日か後に、そんな二人の仲を引き裂く出来事が起こるなんて、思ってもいなかったんだ。
オレは、そんなことが起こるとは露知らず、部屋に入ると、佑宇真から受け取った誕生日プレゼントを開けてみた。
そこに入っていたのは、指輪だった。
そして、メッセージカードが一枚と。
そこには、
『好きだ。』
一言、そう手書きで書いてあった。
佑宇真らしいシンプルな告白。
でも、オレは嬉しすぎて、溢れてくる涙を拭うことも忘れて、声を押し殺して、泣き続けた。
(やっぱり、オレ、まだこんなにも佑宇真のことが好きなんだ。)
確かに大人の先生に惹かれ始めてはいた。
その気持ちは嘘じゃない。
でも、やっぱり、オレには佑宇真が必要で、大好きなんだ。
その事を再確認させられた瞬間だった。
その日、休日だったので、会うのが恥ずかしかったが、佑宇真と近くの公園まで歩いていた。
告白の返事を言うために、佑宇真を誘ったのだ……。
でも、お互いに会話にならない。
佑宇真もあんなプレゼントをオレに渡して、気恥ずかしいのだろう。
オレも何を話していいのか、分からない。
だけど、オレは勇気を出して、佑宇真に返事をしないといけない。
佑宇真なりにオレへの『想い』を伝えてくれたのだ。
今度はオレの番だ。
長年の『想い』を佑宇真に伝えないと……。
オレは、やっと口を開いた。
「…あっ、あのさ、佑宇真。あの返事を……。」
オレがそう言いかけた時だった。
佑宇真はふと車道のほうを見ると、いきなり駆け出した。
(えっ!?)
キキーッという音とともに、ドンッと鈍い音が響く。
オレがその音のほうを向くと、佑宇真が血だらけで倒れていた。
佑宇真が助けたらしい、中学生らしい女の子は、青ざめて、ガクガク震えながら、座り込んでいた。
腰を抜かしている様子だった。
オレは、佑宇真のほうへ駆け寄り、
「おい、佑宇真、大丈夫か?しっかりしろ!」
そう言うと、その身体を揺さぶった。
でも、佑宇真の身体はピクリとも動かない。
「佑宇真!!佑宇真!!」
オレは、気が動転して、佑宇真の名前を呼び続けることしかできなかったんだ。
その時、車のドアが開く音がして、
「おい、優木!!」
聞き覚えのある声がしたと思ったら、唐澤先生だった。
先生は、こちらへ駆け寄ってきた。
「冴樹!?優木、一体、どうしたんだ?」
「…佑宇真が急に車道のほうへ駆け出して……。音がして、見たら、こんなことに……。」
「こりゃ、まずいな。救急車呼んだか?」
先生が冷静にそう聞いてきたので、
「ううん、まだ……。」
オレがそう言うと、先生はスマホを取り出すと、電話をかけ出した。
ここは病院。
交通事故に遭ってしまった佑宇真を、医者が手当てしている。
救急車を呼ぶより、先生の知り合いの腕の良い医者に見せたほうが早いと、先生が自分の車へ、怪我を負った佑宇真を乗せ、連れてきたのだった。
「血が出てるわりには、怪我は大したことはなさそうだな。」
医者はそう言うと、手早く手当てをし出した。
「これでヨシッと。」
医者はそう言って、白衣を脱ぎ始めた。
「美智流、この貸しは大きいぞ。休日に俺を呼び出して、タダで仕事をさせるなんて……。」
そう言うと、タバコを取り出して、事もあろうに吸い出した。
「東青、悪かった。この埋め合わせは必ず、する。」
オレは、そんな先生と、東青と呼ばれた医者の、この二人の関係は、今はどうでもいいんだ。
それよりも、
「佑宇真は、どうなんだ?大丈夫なのか?」
そう叫んでいた。
「坊や、大丈夫だよ。血は出て、輸血はしたが、怪我は大したことはない。」
東青と呼ばれた医者は、そう言うと、ジッとオレを見つめてきた。
「…本当に!?佑宇真は大丈夫なんだな?」
オレはそれだけ言うと、へなへなとその場にへたりこんでしまった。
そして、
「良かった~!!」
安堵のため息をついたのだった。
静かに目を閉じている佑宇真を、オレは見つめていた。
そして、佑宇真が事故に遭った時のことを思い出していた。
(血の気が引いた。まるで、自分の身が張り裂けそうな思いだった。)
やっぱり、オレは、佑宇真を失いたくない。
そう心の中で思っていた。
だけど、『佑宇真』を失うことになろうとは、その時のオレには思いもしなかったんだ。
今も、氷室くんからのおねだりで、膝枕をしている。
ボォーッと、フワフワッとした髪を撫でながら、僕は、速水くんのことを考えていた。
あれから、速水くんは僕に、学校では必要以上に近づいてこなくなってしまった。
(速水くんを怒らしてしまったのだろうなぁ。)
速水くんに謝ろうと思って、速水くんのほうへ行こうとする僕を氷室くんが、学校内のいろんな所へ連れ出してしまうのだ。
「寧々ちゃんの膝って、柔らかい。」
氷室くんは、満足そうに、幸せな顔をしていた。
やっぱり、そんな氷室くんを僕は無下にできなかった。
佑宇真と元通りの関係に戻ったオレは、放課後、今日も一緒に帰っていた。
家の前に着いたオレに、佑宇真は、
「ほら、これ、だいぶ遅くなったけど、誕生日プレゼント。あっ、こっちの大きいのは魔裟斗にな。」
そう言って、渡してくれた。
オレは素直に嬉しくて、
「ありがとう。こっちのは魔裟斗のヤツに渡しておくな。」
笑顔を向けて、そう言った。
すると、佑宇真は、
「久しぶりにお前の笑顔、見たな。」
心底、安心したような顔をして、そう言った。
その瞬間、オレと佑宇真の中にあった、気まずさが消え去っていた。
でも、その何日か後に、そんな二人の仲を引き裂く出来事が起こるなんて、思ってもいなかったんだ。
オレは、そんなことが起こるとは露知らず、部屋に入ると、佑宇真から受け取った誕生日プレゼントを開けてみた。
そこに入っていたのは、指輪だった。
そして、メッセージカードが一枚と。
そこには、
『好きだ。』
一言、そう手書きで書いてあった。
佑宇真らしいシンプルな告白。
でも、オレは嬉しすぎて、溢れてくる涙を拭うことも忘れて、声を押し殺して、泣き続けた。
(やっぱり、オレ、まだこんなにも佑宇真のことが好きなんだ。)
確かに大人の先生に惹かれ始めてはいた。
その気持ちは嘘じゃない。
でも、やっぱり、オレには佑宇真が必要で、大好きなんだ。
その事を再確認させられた瞬間だった。
その日、休日だったので、会うのが恥ずかしかったが、佑宇真と近くの公園まで歩いていた。
告白の返事を言うために、佑宇真を誘ったのだ……。
でも、お互いに会話にならない。
佑宇真もあんなプレゼントをオレに渡して、気恥ずかしいのだろう。
オレも何を話していいのか、分からない。
だけど、オレは勇気を出して、佑宇真に返事をしないといけない。
佑宇真なりにオレへの『想い』を伝えてくれたのだ。
今度はオレの番だ。
長年の『想い』を佑宇真に伝えないと……。
オレは、やっと口を開いた。
「…あっ、あのさ、佑宇真。あの返事を……。」
オレがそう言いかけた時だった。
佑宇真はふと車道のほうを見ると、いきなり駆け出した。
(えっ!?)
キキーッという音とともに、ドンッと鈍い音が響く。
オレがその音のほうを向くと、佑宇真が血だらけで倒れていた。
佑宇真が助けたらしい、中学生らしい女の子は、青ざめて、ガクガク震えながら、座り込んでいた。
腰を抜かしている様子だった。
オレは、佑宇真のほうへ駆け寄り、
「おい、佑宇真、大丈夫か?しっかりしろ!」
そう言うと、その身体を揺さぶった。
でも、佑宇真の身体はピクリとも動かない。
「佑宇真!!佑宇真!!」
オレは、気が動転して、佑宇真の名前を呼び続けることしかできなかったんだ。
その時、車のドアが開く音がして、
「おい、優木!!」
聞き覚えのある声がしたと思ったら、唐澤先生だった。
先生は、こちらへ駆け寄ってきた。
「冴樹!?優木、一体、どうしたんだ?」
「…佑宇真が急に車道のほうへ駆け出して……。音がして、見たら、こんなことに……。」
「こりゃ、まずいな。救急車呼んだか?」
先生が冷静にそう聞いてきたので、
「ううん、まだ……。」
オレがそう言うと、先生はスマホを取り出すと、電話をかけ出した。
ここは病院。
交通事故に遭ってしまった佑宇真を、医者が手当てしている。
救急車を呼ぶより、先生の知り合いの腕の良い医者に見せたほうが早いと、先生が自分の車へ、怪我を負った佑宇真を乗せ、連れてきたのだった。
「血が出てるわりには、怪我は大したことはなさそうだな。」
医者はそう言うと、手早く手当てをし出した。
「これでヨシッと。」
医者はそう言って、白衣を脱ぎ始めた。
「美智流、この貸しは大きいぞ。休日に俺を呼び出して、タダで仕事をさせるなんて……。」
そう言うと、タバコを取り出して、事もあろうに吸い出した。
「東青、悪かった。この埋め合わせは必ず、する。」
オレは、そんな先生と、東青と呼ばれた医者の、この二人の関係は、今はどうでもいいんだ。
それよりも、
「佑宇真は、どうなんだ?大丈夫なのか?」
そう叫んでいた。
「坊や、大丈夫だよ。血は出て、輸血はしたが、怪我は大したことはない。」
東青と呼ばれた医者は、そう言うと、ジッとオレを見つめてきた。
「…本当に!?佑宇真は大丈夫なんだな?」
オレはそれだけ言うと、へなへなとその場にへたりこんでしまった。
そして、
「良かった~!!」
安堵のため息をついたのだった。
静かに目を閉じている佑宇真を、オレは見つめていた。
そして、佑宇真が事故に遭った時のことを思い出していた。
(血の気が引いた。まるで、自分の身が張り裂けそうな思いだった。)
やっぱり、オレは、佑宇真を失いたくない。
そう心の中で思っていた。
だけど、『佑宇真』を失うことになろうとは、その時のオレには思いもしなかったんだ。