あれから、次の日も、そのまた次の日も、佑宇真とは一切、口を聞いていない。
気まずいまま、お互いによそよそしくなり、佑宇真とは、学校へ行くのも、放課後、一緒に帰ることもしなくなってしまった。
お互いの家を行ききしていたのに、それも次第に減っていった。
そんなことは初めてで、オレはかなり堪えていた。
魔裟斗は、そんなオレと佑宇真の様子を心配してはいたが、最近、速水ん家にしょっちゅう遊びに行っているらしい。
魔裟斗は、速水とは特に何もないし、ただの友達付き合いだから、大丈夫だとは言ってはいたが……。
(何か、怪しいんだよな。)
何がって、いつから、魔裟斗と速水とは『友達』になったんだ?
そもそも、魔裟斗は速水のことが苦手と違ったのか?
その上、魔裟斗が速水ん家に出かける時の、あの、さも嬉しそうな表情と帰ってきた時の、楽しそうな表情。
まるで、恋する乙女そのもので、オレはかなり一抹の不安にかられていた。
(まさか、魔裟斗のヤツ……。)
考えたくはなかったが、そのうち、魔裟斗とも話をしなければならないと思った。
そして……、
「魔裟斗のヤツ……。オレの気も知らないで……。」
と、そう思っていた。

(寧々ちゃん、ゴメン。)
僕は、心の中でそう叫んでいた。
ここは寧々ちゃんの部屋。
僕は今、『寧々ちゃん』なワケで、寧々ちゃんのベッドに寝転がっている。
別にベッドに寝転がっていることに、『ゴメン』じゃなくて、速水くんとのことで、嘘をついてるのと、最近の寧々ちゃんと佑宇真くんとの明らかに普通じゃない状態を心配しながら、自分は速水くんにときめく恋心を楽しんでいるので、謝っていたのだ。
でも、寧々ちゃんは意外と溜め込むタイプだが、辛抱強いところもある。
だから、もし、本当に自分で堪えられなくなって、話したいと思ったら、自分から、僕に話すと思うんだよね。
だから、その時まで、もう少し待ってみようと思った。

「優木、冴樹と何かあったのか?」
あまりにも、佑宇真とのことで、悩んでいたオレは、唐澤先生が美味しい料理を作ってくれるということで、先生のマンションに久しぶりに来ていた。
なぜ、先生なのか?
だって、家には魔裟斗もいて、話ぐらい聞いてくれると思う。
(やっぱり、そこは、大人に頼ってしまうものなのか?)
そう思いながら、先生が聞いてきてくれたので、素直に話した。
先生は静かに話を聞いていたが、
「へぇー、冴樹もやるもんだな。」
一言、そう言っただけだった。
「『やるもんだな。』じゃないですよ!佑宇真くんとは、あれから一言も口聞いてないんですよ!!」
「だって、俺はその方が都合がいいからな。」
「えっ!?」
「付け入る隙ができたってね。」
先生はそう言うと、オレを自分の方へ引き寄せてきた。
「悩める生徒に何するんだよ!!」
オレはそう怒鳴って、つい素の自分を出してしまった。
「それが優木の本性?」
ニヤリと笑った先生はオレの顔を見て、
「お前の冴樹を見る表情って、モロ『女』なんだよな。冴樹の方もお前を見る時は『男が女』を見る表情でさ。何か、最初から思ってたけど、優木って『女』だよな。」
そう鋭く言った。
「最初?」
「河原で大泣きしてただろ?」
「!?」
あの光景を誰かに、しかも、先生に見られてたなんて……。
(…は…、恥ずかしい……。この場から消え去りたい……。)
オレは怒りよりも恥ずかしさがこみ上げてきた。
その隙に、先生はオレを引き寄せて、抱きしめると、深い口づけをしてきた。
「…んっ、ふ……。」
オレの口が少し開いた瞬間、舌を絡めてきた。
俗にいう、ディープキス。
「…ふっ…ん……。」
あまりの激しく、熱いキスに、オレは立っていられなくなる。
そして、先生に支えてもらって、やっと立っていられた。
「こういうキスは初めてみたいだな。」
先生は大人の余裕の顔で、笑いながら、そう言った。
オレはドキドキが止まらなかったんだ。

「速水くん、ダメだって。離してよ。」
僕は例によって、速水くんの家に来ていた。
「嫌だ。いいだろ?こうするぐらい。」
今の僕たちの状態を言うと、二人で畳に座って、僕、つまり『寧々ちゃんの身体』を速水くんが後ろから、抱きしめていた。
僕はドキドキと胸の鼓動が速くなっていくのを感じていた。
「お前、すごい胸の鼓動。」
と、速水くんはそう言った。
「こんな体勢、恥ずかしいんだってば。」
僕はそう言う。
しかし、速水くんは、
「そんなこと言ってるわりには、嫌がってないじゃんか。」
相変わらず、速水くんは鋭い。
僕の気持ちを知ってか知らずか、やたらと二人っきりになったら、抱きついてくる。
前にこの身体は『寧々ちゃん』だから、キスはダメって言ってから、してこないけど……。
でも、この体勢はかなりヤバい…と思う。
僕がそんな風に思ってた時だった。
速水くんが突然、チュッと頬に軽くキスをした。
(うわー、今の何?)
僕は突然のことに、全身が火照ってたようになってしまった。
そう思っていると、速水くんは、
「唇にキスはダメだけど、これぐらいなら、いいだろ?」
と、そう言った。
僕は何も言うことができなかった。