あれ以来、一週間は、僕は速水くんのことを避けまくっていた。
なぜだか、速水くんを目にすると、胸の鼓動が止まらない。
つい、速水くんを目で追ってしまう。
(これじゃ、本当に速水くんを好きみたいじゃないか。)
僕はまだ自分のその気持ちを認めたくなかったのかもしれない。
だって、僕は元々『男』だし、速水くんとは『男同士』だ。
まさか、自分が乙女男子でも、『男の子』を好きになりかけようとは……。
確かに速水くんは男らしい。
だけど……。
速水くんは本気だって、分かったし、例え、相手が『男の子』でも、嬉しい気持ちがなかったわけじゃない。
(…いや…、嬉しかったんだ。こんな僕でも好きになってくれて……。)
僕はそう思いながら、速水くんのことをつい考えていた。

「おい、優木寧々!!」
「!?」
人気のない廊下の隅で、速水くんに捕まってしまった。
「何、俺のことを避けまくってるんだよ!!」
速水くんは、逃げ場をなくすように僕を壁際に詰め寄らせた。
背の高い速水くんに僕の姿は隠されてしまった。
僕は速水くんの温もりと体温と息、そして、逞しい胸の鼓動を感じ、僕の胸の鼓動は張り裂けそうにドキドキとしていた。
「おい、優木寧々、聞いてるのか?何で、俺のこと、避けまくってるんだよ!!」
「…べ…別に僕は避けてなんか……。」
「避けまくってるだろう!?何でだよ?俺があんなこと、したからか?」
速水くんは、そう言うと、さらに詰めよってくる。
「そんなんじゃないよ!」
「だったら、何で、避けまくるんだよ?」
と、速水くんはなおも食い下がる。
「それは……。」
(まさか、速水くんのことを好きかもしれない…なんて言えないしなぁ。)
「もう俺のこと、嫌いになったのか?」
速水くんが突然、そんな事言い出したので、僕は、
「えっ!?速水くんを嫌いとかそんなんじゃないよ!」
と、僕は慌ててそう言った。
速水くんはそんな僕の様子をジッと見ていたが、
「じゃあ、今まで通りの関係でいいんだよな?」
そう聞いてきた。
「…う…うん。」
そう返事した僕に信じられない一言が返ってきた。
「悪かったよ。お前の気持ちも考えず、しかも、優木寧々の気持ちも考えなかった。確かに好きでもない奴からキスされたら、誰でも嫌だよな。」
これが、あの速水くんの言葉とは思えず、唖然とした顔で、見つめていると、速水くんはばつが悪そうな顔をして、
「何だよ。一応、これでも、反省してるんだぞ。」
そう言った。
僕は一瞬、驚いた顔をしたが、
「えへへっ。速水くんでも反省したりするんだ。」
そう言って、笑った。
速水くんはそんな僕を見て、
「俺、やっぱり、お前の笑顔、好きだな。」
ポツリとそう言った。
「えっ!?」
速水くんに突然、そう言われたので、僕は照れた赤い顔を隠すことができなかった。
「なぁ、お前、可愛いから、抱きしめてもいいか?」
「でも、ここ、廊下で……。」
「ここ、死角だし、大丈夫だ。」
速水くんはそう言うと、僕を抱きしめてきた。
僕もされるがままになっていた。
「俺、やっぱり、お前のこと、好きだ。」
速水くんはまた告白してきた。
「ねぇ、何で速水くんは僕を好きでいてくれてるの?」
僕はずっと聞きたかったことを口にしてみた。
今なら、速水くんも答えてくれると思って……。
「それは言わない。」
速水くんはそう言った。
「何で?」
「そんなの決まってるだろ?」
と、速水くんが怒ったような口調になったけど、今の僕はそう怖くない。
速水くんを真っ直ぐに見つめて、答えを待った。
「そんなこと、言うのが、…は…恥ずかしいだろ?」
速水くんは最後の方はどもったような口調になり、耳が少し赤いような気がした。
僕はそんな速水くんを見て、
(意外とシャイなんだな。)
って、思えるほどだった。
そして、僕はやっぱり速水くんが好きなんだと、気づかされた瞬間だった。