あの屋上の一件以来、なぜだか、佑宇真の様子がおかしい。
必要以上にオレの側にいるし、今だって、昼御飯を屋上で一緒に食べている。
こんなこと、高校に入って、初めてだった。
オレはいつもサヤちんと樹理と食べてたし、佑宇真は佑宇真で、他の男友達と食べていた。
しかも、二人共、無言で、もくもくと食べている。
だって、佑宇真が必要以上に何もしゃべらないから……。
ここは、オレから話しかけてみるべきかな。
「ねぇ、佑宇真、あのさ……。」
と、オレがそう言いかけた時だった。
「お前、何で黙ってた?」
「えっ!?何の事?」
オレは何の事か分からず、そう聞き返していた。
「唐澤先生とキスと告白されたことだよ!」
「!?」
オレは驚いて、何も言えない。
(っていうか、何で佑宇真がその事、知ってるんだよ?)
答えは一つしかない。何らかの形で、先生から
聞いてしまったってことだ。
(あの最低教師!!普通、言うか?)
オレは、内心、はらわたが煮えくり返っていた。
「寧々!!俺の話、聞いてるのか?」
佑宇真に呼ばれ、ハッと我に返った。
そうだった。
この場を何とかしないと……。
「大丈夫だよ。あれから、先生にはまったく近づいてないし、ほら、こうして、佑宇真もいててくれるし……。」
「俺はそんなことを聞いてるんじゃない!!何で、お前の口から言ってくれなかったんだって、そう言ってるんだよ。」
佑宇真はそう言うと、複雑な表情をした。
(そんなこと、佑宇真に言えるわけないじゃないか。他の男にキスされて、告白されたなんて……。でも……。)
「佑宇真、ゴメン。言い出すタイミングがなくて……。」
と、オレは素直に謝った。
「もういいよ。俺も悪かった。いきなり言って……。」
佑宇真も反省をしてるような顔をしていた。
「寧々、いいか。唐澤先生には必要以上には近づくなよ。」
「うん。分かった。」
そうこうしている間に、始業のベルが鳴り響いた。

唐澤先生から、クラス全員に宿題ノートが返された。
オレは先生を見るたび、はらわたが煮えくり返っているのだ。
『何で、佑宇真にあんなこと言ったんだ!!』
すぐここで怒鳴りつけてやりたい。
そう思っていた時、
「ん?」
オレのノートに何か、紙切れみたいなのが、折られて入っていた。
その紙切れを見ると、何やら、住所らしきものと部屋番号が書いてあって、
『この前のこと、みんなにバラされたくなければ、18時半にここに来ること。』
そう、メモ書きがされていた。
先生の方を見ると、何やら、意味深な笑みを浮かべていた。
(何か、嫌な予感がする。)

ここは、マンションの部屋の扉の前。
だが、かなりの高級マンションだ。
それは、オレでさえ、見てすぐに分かる。
結局、オレは佑宇真に何の相談もせずに、唐澤先生から指定された部屋番号の前にいた。
表札を何気なしに見たら、『唐澤』と書いてあった。
(ここが先生の自宅なのか!?)
オレは早くも後悔していた。
やっぱり佑宇真に言って、相談すべきだったかな?
でも、佑宇真に言ったら、
『絶対に行くな!』
って、言うだろうしなぁ……。
「優木、もう来てたのか?まだ20分前だぞ。」
と、突然、後ろから声がしたから、オレはびっくりしてしまった。
だが、振り向くと、先生が立っていた。
なぜか、買い物袋を持って……。

結局、オレは先生の自宅に上がってしまっていた。
「優木、オムライスでいいよな?」
先生がいきなりそう言ったので、
「えっ!?先生が作ってくれるの?」
「おう。任しとけ。これでも、料理は得意な方なんだ。」
そう言うと、先生は、キッチンに立ち、本当に料理を作り始めた。
(てっきり、また、キスとかされるかと思ってしまった。あっ、いや、別に期待してたわけじゃないけど……。)
部屋中にいい匂いが立ちこめて……。
「ほら、出来たぞ。食え。」
テーブルにお皿に入ったオムライスを置いてくれた。
それは見事なまでにキレイな形のオムライスで、食欲をそそる。
「美味しそう。」
「美味しそうじゃなくて、本当に美味しいから、早く食べろよ。」
と、先生はそう言った。
「うん。いただきます。」
口に入れた瞬間、
「…お、おいひい!」
そう言っていた。
食べながら、その様子を見ていた先生は、
「あはは!お前、食べるか、しゃべるか、どちらかにしろよ。」
そう言って、なぜか、オレがドキッとするような爽快な笑顔で言った。
そして、二人で笑い合いながら、楽しく、夕御飯を食べ終わった。

玄関先にオレは立って、
「今日はごちそうさまでした。」
ペコッと頭を下げて、お礼を言った。
「今日は送って行ってやれなくて、悪いけど……。」
と、先生はすまなそうに言った。
「いいです。一人で帰れますから……。さようなら。」
そう言って、オレが帰ろうとした時、
「優木、忘れ物。」
「えっ!?」
先生はオレの方に顔を近づけると、チュッと軽くキスした。
「先生、また何するんですか!!」
「今日のお礼ってことで。」
先生はニヤリと笑って、そう言った。
オレは怒鳴りながらも、自分の胸の鼓動がドキドキと止まらないのを感じていた。
「もう帰ります。」
なぜだか、先生に赤くなってしまっていた顔を見られたくないために、後ろを向いて、早足で歩いて行く。
「優木、またな!」

(あのエロ教師。また性懲りもなく……。)
だが、前のような怒りとかはまったくなかった。
(なぜでだろう?あの場で、ぶん殴ってもよかったのに……。それができなかった。それにこのドキドキはなんだろう?)
オレは考えてみたが、よくは分からなかった。