(最低、最低、最低!!)
良い先生だと思っていたのに、本当は意地悪で最低な人間だった。
(おまけにオレ、ファーかスかトキスだったのに……。)
魔裟斗の身体でも、佑宇真以外の相手とキスするなんて、あり得なかった……。
でも、他の人としてしまった。
嫌だったはずなのに、唇に残る感触が記憶に残っている。
「ああ、嫌だ、嫌だ。」
もう考えるのはやめよう。
そう思っていた時、
「へぇー、優木って、そんな言葉づかいもするんだな。」
と、声がしたかと思うと、唐澤先生が後ろに立っていた。
「うわっ!!びっくりさせないで下さいよ。それよりも、僕の半径20メートル以内は近づかないで下さい!僕、昨日の事、許したわけじゃありませんから……。」
オレは近づくなオーラを出してるのに、
「許してもらおうなんて、思ってないさ。諦めてもないから。」
「!?」
「優木、今日は資料作り、手伝え。」
「嫌です。」
オレははっきりと言った。
こういうヤツには優柔不断にするのがよくない。
はっきりとさせた方がいいんだ。
「へぇー、俺に逆らうんだ。」
「はい!」
「ふうん。まぁ、いいや。今日のところは見逃してやるよ。」
そう言うと、オレの横をスッと通り、歩いて行った。
(ハァ~。良かった。助かった。)
難を逃れたオレは、心底、ホッとした。
その時、ぐいっと手を握られ、その場から移動し始めた。
「おい、魔裟斗。ちょっと来い。」
「えっ!?佑宇真?何?ちょっと……。」
そうして、人気のない屋上まで連れて行かされた。
佑宇真とオレは向かい合って、しばらく無言でいたが、佑宇真が先に口を開いて言った。
「最近、唐澤先生と仲が良いんだな。」
佑宇真がそう言ったので、
「仲がいいわけじゃないよ。」
「そのわりには、和気あいあいと話してるって、聞いたぞ。さっきだって……。」
何か、佑宇真は誤解してるらしい。
これは誤解をとかないと……。
「佑宇真、だから、先生とは仲がいいわけじゃないんだ。だって、昨日……。」
「昨日、どうしたんだ?唐澤先生と何かあったのか?」
と、佑宇真は訝しげに尋ねてくる。
「ううん。何でもないよ。何もなかった。それより、佑宇真、どうしたんだよ?前はこんなこと聞いてこなかったのに……。」
「…………」
なぜか、佑宇真は黙っていた。
そして、
「それなら、いいんだよ。」
そう言うと、オレ一人残して、その場を立ち去ってしまった。
「佑宇真のヤツ、一体、何なんだよ。」
オレはポツンとその場に立ちつくして、そう呟いた。

佑宇真は屋上から階段を降りていた。
降りきったところで、なぜか、唐澤先生が立っていた。
「!?」
佑宇真は少し驚いて、先生を見たが、
「何か、俺に用ですか?」
そう聞いた。
「冴樹佑宇真くん…だっけ?」
先生はニヤリと笑って、そう聞いてきた。
「そうですけど……。」
「優木と何かあったのか?」
先生は、なぜだか、そう聞いてきた。
佑宇真は険しい顔になって、
「俺と魔裟斗との間に何があろうと、唐澤先生には関係ないでしょう?」
先生は再び、ニヤリと笑って、
「関係あるよ。だって、俺は優木のことが好きだからな。昨日、優木にキスして、告白した。まぁ、拒否られて、逃げられたけどな。」
「!?」
佑宇真は驚いた顔をした。
「お前は?お前は優木のこと、どう思ってるんだ?」
佑宇真は少しの間、黙っていたが、
「あんた、教師だろう?教師が生徒に手を出していいのかよ?」
先生を厳しい表情で見つめて、そう言った。
先生は佑宇真を真正面から見て、
「俺はそんなこと聞いてないんだけどなぁ。何?俺が優木のこと、もらってもいいの?」
と、そう言った。
先生がそう言うと、佑宇真はますます厳しく、険しい顔になり、
「魔裟斗は俺が守るんだ!」
と、キッパリと言い切った。
先生は佑宇真のその言葉を聞いて、
「へぇー、じゃあ、お前がどこまで優木のこと、守れるのか、お手並み拝見だな。」
そう言うと、先生は、佑宇真の前から立ち去って行った。
先生がいなくなった後、
「ちくしょう。」
佑宇真はそう言うと、壁に拳をドンッとぶつけた。