あれから数日。
オレはなぜか、ほとんど放課後、唐澤先生に呼び出されて、資料作りや、その他、雑用を強制的にやらされている。
そのおかげで、佑宇真と一緒に帰ることができずにいた。
「唐澤先生、終わりました。」
と、オレがそう言うと、
「そうか。ご苦労さん。」
「じゃあ、僕、帰ります。」
オレがそう言って、扉の方に行きかけた時、
「優木、待ってろ。送って行ってやる。」
「えっ!?そんな……。いつも送ってもらって迷惑じゃ……。」
「構わなやしないさ。俺んちから、そう遠くないし、いつも手伝ってもらってるしさ。」
先生はそう言うと、にっこりと笑った。

先生は車に乗る時にメガネをかける。
そして、タバコを吸う様は、確かにカッコいい。
「優木、いつも悪いな。」
「な…何ですか、突然?先生が強制的に僕を手伝いにかりたてるんでしょう?」
「あはは!!そうなんだけど。お前って、文句たれるわりには、きっちりするし。お人好しだよな。」
「僕って、お人好しなんですかね?」
そうオレが聞き返すと、
「そうだよ。おまけに人前では絶対泣かないだろう、お前?」
「そんなことないですよ。寧々ちゃんの前では泣いたりしますよ。」
「寧々ちゃん?何?もしかして、優木の彼女!?」
先生がそう聞いてきたので、
「違いますよ。寧々ちゃんは僕の双子の妹です。」
「あっ、そうなんだ。ちなみに聞くけど、優木は今、恋人はいるの?」
「えっ!?」
「恋人はいるの?って聞いてるの。」
「恋人はいないけど……。」
「好きな人はいるってこと?」
先生にズバリと聞かれたので、
「……はい。」
と、オレは素直にそう答えていた。
「ふうん……。」
先生は少し考え込んだ様子だったが、
「じゃあ、単刀直入に聞くけど、優木の好きな人って、前まで、放課後になったら、一緒に帰ってた男の子?」
「ええっ!?…だ…だって、佑宇真くんは男ですよ?僕だって、男だし……。」
オレはあまりに驚きすぎて、口をパクパクさせていた。
「そうかぁ。ユウマくんっていうんだ。」
そう言うと、先生は突然、意地悪な笑みを浮かべると、
「そういう恋愛だってあるだろ?」
そう言ってのけた。
オレは唖然とするしかない。
「ちなみに俺は男も女もイケる。」
と、さらりと恐ろしい事を口にしてくれる。
オレはサーッと血の気が引くのを感じて、
「もうここまででいいです!降ります!」
危ないのを承知で降りようとした。
だが、先生がそれを遮り、
「危ないぞ。」
「僕は別の意味で危ないです!」
先生はニヤリと笑うと、
「優木は、俺のモロ好みのタイプなんだよな。あっ、外見だけじゃないぞ。中身もな。ほら、家の前に着いたぞ。」
そう言うと、急いで、シートベルトを外し、降りようとしたオレにいきなりキスしてきた。
「!?」
驚いて、唇が離れた瞬間、口をぬぐったオレに
「もしかして、初めてだった?」
クスクスと笑うと、意地悪く聞いてきた。
「先生なんか大嫌い!!」
オレはそう言うと、勢いよく、車のドアを閉めて、先生の見送りもせずに家の中に入った。
(何て先生だ。もう絶対に近づかないようにしよう!)
オレはそう心に決めて、その夜は眠りについたのだった。