大切な君。
幼なじみってヤツで、ずっと一緒にいた。
気づいて10年ちょっと。
でも、アイツには他に好きな人がいる。
切ない……。
けど、どうしようもない。
好きな気持ちは走り始めたら止まらないから……。

「寧々ちゃん、学校に遅れるよ。」
双子の兄・魔裟斗が部屋の外から声をかけてくる。
オレは優木寧々。誕生日はまだきてないので15歳 。
都立の高校に通っている。勉強は苦手な方。でも、スポーツは得意。
性格は男勝りで、自分のことを「オレ」と言う。
魔裟斗はオレの双子の兄。主に女子から「マサ くん」と呼ばれている乙女系男子。
ナヨナヨってしてて、オレから言わせれば、 もう少し男らしく、シャキッとしろと思うのだが、それでもみんなから受け入れられてる。
でも、料理の腕前はなかなかのもので、魔裟斗の作る物は美味しいから、オレも文句は言えない。
魔裟斗の呼ぶ声に合わせて、突然、扉が開き、アイツがオレの部屋に入ってきた。
「寧々、いつまで寝てるんだ。起きないと、本当に遅刻するぞ。」
この光景は、小学校に入学した時からの恒例なので、内心ではドキドキしつつ、
「佑宇真、いつも言ってるだろ。いきなりノックもなしに部屋に入って来るなって。」
「それは仕方ない。お前が早く起きないのが悪いんじゃないか。」
それを言われるとオレは何も言えない。
冴樹佑宇真。オレの右隣の家に住んでいる、 いわゆる幼なじみってヤツ。
オレは昔から佑宇真に弱い。
他の男子には平気で口答えして、ケンカしたりできた。
でも、佑宇真の言うことはいつも正しくて、オレは反論できずにケンカにもならない。
惚れてるからと言われてしまえばそれまでだが、とにかく頭が上がらないのだ。
佑宇真はとにかくカッコいい。その上、学年一の秀才でスポーツ万能。品行方正の優等生ともなれば、女子たちがほっておかない。
昨日も友達のサヤちんたちから、同級生の女子から告白されていたと聞いた。
でも、告白はすべて断ってるって噂で聞いた。
「好きな人がいるから」
と言って、断っているらしい。
本人とはそういう話は一切したことがないし、オレはしたいとも思わない。
だって、オレは知ってるんだ。
佑宇真には好きな人がいるってことを……。
それが実はせり姉だとも。
せり姉とは、優木芹那。オレと魔裟斗の姉だ。
勉強もスポーツもできて、おまけに超美人。
家庭全般も得意で、優しくて、言うことナシの自慢の姉だ。
でも、オレは小さい頃からせり姉に比べられて、少しながら劣等感を抱いている。
せり姉のことは大好きだが、そんな感情を抱いているオレ自身に最近、少し嫌気がさしている。
それに大好きな佑宇真がせり姉を好き。
それが劣等感に拍車をかけている。
佑宇真はオレとせり姉を比べるようなことは決してしないのが、せめてもの救いだ。