「あれ? 天野さん?」

顔をあげると高村が真横に立って、私の顔を覗きこんでいた。

高村とは1年の時も今年も違うクラスだ。

校内で見かける度に気になってはいたけど、話かける勇気は出なかった。

久しぶりに話したな・・

私のこと覚えててくれたんだ。
もう忘れられてるかと思ったよ。

「へ~天野さん、そういうの読むんだね。意外だな」

本? 私は持っていた本のタイトルを確認する。
図書委員が作っているおすすめコーナーから適当に取ってきただけだ。

『夏への扉』

感想なんて聞かれても答えられないから正直に話すことにした。

「適当に持ってきただけで、全然読んでない。 面白いの?」

「うん、面白いよ! せっかくだから読んでみなよ」

生き生きとした嬉しそうな顔をしている。

こんな表情もするんだなー。
本、好きだもんね。

「どんな話なの?」

「有名なSFの作品だよ。
一言で説明するのは難しいけど・・・未来を諦めない話って感じかな??」

未来を諦めない・・・
今の私が一番読みたくないタイプの話だなぁ。

「天野さん、何かあった? 体調でも悪い?」

そんなに暗い顔してたかな・・・