その車はものすごい勢いで、横断歩道を渡っているカオめがけて走ってきていた。
「カオ!!!!」
考える間も無く、体が動いた。
全力で走ってカオの元へ行き、カオの腕を引っ張った。
その勢いのまま後ろに倒れこむ。
間一髪。
あと1秒でも遅れていたら…。
考えるだけで体が震える。
車はそのまま止まることなく走り去って行く。
たぶん、飲酒運転とかだろうな。あれは。
「恭、ちゃん…?」
3年ぶりに聞いたカオの俺を呼ぶ声に、ハッと我にかえる。
「恭ちゃ…」
呼ぶな。
我慢できなくなる。
俺はカオの声を振り切るように立ち上がり、買い物袋から投げ出され地面に転がったりんごを拾い集め、袋の中にしまってカオに手渡す。
これ以上、側にいたらダメだ。
「あのっ、恭ちゃ…」
「話しかけて悪かったな」
カオの顔を見ることもなく、俺はそれだけ言って歩き出した。