触れたい。
今だけ、カオに触れたい。
そっと、カオに手を伸ばす。
ドキドキと早くなる胸の鼓動。
もう少しで、カオに触れそうな距離まで来た時。
ふと、カオの腕の下にある雑誌が目に付いた。
それは、手作りチョコのレシピがズラリと書かれた雑誌で。
それを見た瞬間、俺の手はカオに届くことなくストップした。
そうか。
もう少しでバレンタインだもんな。
…彼氏に、あげるのか。
ストップした手を、引っ込める。
何してんだ、俺。
触れてはいけないと、分かっていたのに。
目の前にすると、感情を抑えきれなくなる。
触れていい資格なんて、俺にあるはずがないのに。
届きそうで、届かない。
触れられそうで、触れられない。
カオ、お前は本当に遠い存在になっちまったんだな…。
まだまだ日中でも冷え込む時期。
このまま寝ていたら風邪を引きかねない。
首、寒そうだな。
見たところ、鞄にもマフラーを持ってきている様子がない。
俺はつけていたマフラーを取って、それをカオの首にかけた。
本当は巻きつけてやりたいけど、そうするとカオに触れないといけないから。
触れたら、止まんなくなるから。
くるりとカオに背を向けて教室を出る。
届かない声
届かない想い
「カオ…」
小さく呟いた声は、冬の乾いた空気の中に消えていった。
あと、どれくらいだろう。
あとどれくらいで、俺はこの気持ちを消せるんだろう…。
一生、消せないかもな。
もうそろそろ、限界かもしれない。