気配がねぇのはそれだけ訓練したから。



俺の名前を知ってたのは何処かのイヌだから。



そう考えれば全て辻褄が合う。



「…ちがう。」



「嘘ついても無駄だ!イヌじゃねぇなら何故俺を知ってて近づいた!!!!」



「……ちがう。…違うっっ!!」



骨を折る勢いで餓鬼の腕を握り声を荒らげるが、餓鬼は俺を睨み、初めて感情を顕にした。



「"スパイは裏切り。裏切り者は罰を受ける。"」



「!!」



いきなり人が変わったかのようにそう放った言葉は"普通"の人間が、餓鬼が、知ってるような言葉じゃねぇ。



その"言葉"は、知ってていい言葉じゃねぇ。



「…てめ…ッ、まさか"本部"の…!!
じゃあてめぇは…っ」



"本部"の人間か、"本部"に近い人間。



裏のトップに近い人間しか知りえない"言葉"だ。



「なんで…てめぇみてぇな、餓鬼、まで…」



たった一桁の、4、5歳程度の女の餓鬼が。何故あの"本部"なんかに。



「……ちがう。ちがうよ。"ぼく"は、っ!


"オレ"はあんたに助けを求めに来ただけ。」



「……は、」



コロコロと表情や言葉遣いが替わる餓鬼は、まるで人格が2つあるみてぇだった。



「……よく聞け。"オレ"は百桃を助けたい、それだけだ。

"オレ"を信じろとは言わない。だが、"虹羽百桃"を、"あいつ"から救ってくれ…。」



「…虹羽…?
!!まさか、虹羽組の、…!!」



裏の一部での噂でしかきかない"虹羽"の名は全員が口を揃えて「奴には敵わない」という。



その"奴"が誰なのかは誰一人として知らなかったが、今、俺はその"奴"の正体がわかった。