俺が彼女のお守りを探そうとすると、しきりに"自分一人で大丈夫"と言うから、少し意地悪をしてみた。


"もうここに、君の探しているお守りはない"って。


その時には、もう自分の右手に彼女のお守りを隠し持った状態で。

彼女のお守りは、彼女から聞いた座席番号の座席シートの下に落ちていたから、簡単に見つかったんだ。


俺のちょっとした意地悪を真に受けた彼女は、一気に青ざめてしまって、違うところを探そうと俺に背を向けた瞬間、やりすぎたと反省した。

素直に彼女に見つけたお守りを差し出すと、始めは驚いた表情で固まってしまった彼女も、俺がそのお守りを渡すと、途端にその緊迫した表情が緩んでいって。

失くしたお守りを見つけて安堵した彼女の微笑みを見た瞬間、俺の心はざわついた。


彼女の微笑みだけじゃない。

このたった数分の中で見た、彼女の表情は信じられないほど沢山あって。


焦った顔、不安げな顔、困った顔、戸惑った顔、泣きそうな顔、驚いた顔――そして、安堵の表情。

今は、安堵を通り越して、手元に返ってきたお守りに対して喜んでいるようで、眩しいくらいの笑顔を見せている。


そんな、彼女のコロコロ変わる表情を、ずっと見ていたいと思ってしまった。

この数分で、さっき、廊下で逢ったばかりなのに、俺はもう、名前も知らない彼女に惹かれている――考えなくても、俺の心が訴えていた。


彼女のことを、もっとよく、知りたい――と。