学が車内の音楽のボリュームを上げた。

それ以上聞かない学と、何も言わない私との空間を埋めるように。

同じ場所にずっと車を止め、気がつけば街からはネオンが消えていた。


「お前名前は?」

「椿……愛川椿」

「椿、何かあったら連絡してこい」


学は車にあったマジックで私の手の平に番号を書いた。


「かけないと思う」


ぶっきらぼうに言う私の髪をくしゃくしゃとして「お守りだ。登録しておけ」と笑った。

あの時は感じなかったけど、今思えば学の本当の笑顔だった。

そして駅まで送ってもらって学とは別れた。

それからたて続けて学に会った。