男がまた私を殴ろうと腕を振り上げ、私はその時が終わるのを願うようにギュッと目を瞑った。

バキッと鈍い音はしたけど痛みを感じない。

ゆっくり目を開けると男は倒れていた。
そして、その代わりに真っ赤な髪の男が立っていた。

それが学だった。

何も言わず自分の着ていたシャツを汚れた制服を着ている私にかけてくれた。
そして、泣きじゃくる私の腕を掴み、あの黒いワンボックスの助手席に乗せた。

私が落ち着くまでずっと側に居てくれた。


「大丈夫か?」


私は黙って頷く。


「知り合いか?」

「違う」


そう答えた私の声はまだ震えていた。