「私は千の事はなんとも思ってないぞ?」

まさかの、ですか。
「え?でも千尋はハク様の事を…ッ」

しまった。
口が滑った。

「いっ、今の事は忘れてください。」

慌ててそう言うとハク様が言った。
「…千と私は両想いだった。」

『だった』

ひとことの過去形がこんなにも重く感じるなんて。

「でも、昨日そなたを見て、私は初めて生きている者の事を美しいと思った。」

嘘だ…。

「尻軽男だと思ったか?」

「…はい。」

ハク様は怪しく笑い、
「本当に、そう思ったのだよ。」
と、優しく囁いた。

゚・*:.。❁

気まずい。
さすがに千と気まずすぎる。
どうしようかなあ。

「おはよう!姫!」
千、だ。

「千…おはよう!」
未だに『姫』と呼ばれるには抵抗がある。

「もうすぐ朝飯の時間だってよ!」
リンさんが明るい声で皆に伝える。
此処にはそんなものまであるのかー!

「はーい!」
元気よく返事をすると、千が
「下に降りよう?」
と促すので、
「うん!」
と言い、千の隣に行く。

湯屋の朝ごはんだというものだから、もっと質素な物かと思っていたけど、とても豪華な『お金持ちの食事』という物で内心驚いた。

「「いただきまーす!」」

皆パクパクと食べ始める。

「此処では遠慮なく食べていいんだからね!」
ひとりの湯女が優しく私に言った。

「ありがとうございます!」

「ほーんと!姫は可愛いね!」
またひとりの湯女が言った。
それは優しいもので、妬みや嫉妬などはみじんみも無かった。

「ハク様もメロメロになる訳だ!」
と、誰かが言った瞬間、空気が凍った。

「せ、千!ごめん…。」
どうやら千の事を気にしているらしい。

「……へっ?あ!全然!気にしてないよ!」
千は辛い時ほどよく無理して笑っている。

やっぱり千はハク様が好きなんだね…。

やっぱり…。

親友が想っている人を好きになるのは、反則、だよね……。