「え・・・」
なぜ名前を知っているのか。
知り合いだろうか。
立ち去ろうとしていた足を止め、改めてその女性に目を向ける。
あ・・・。
「井上?」
「うわー!やっぱり永瀬君だ!久しぶりだね」
そう言って嬉しそうに笑う女性。
《井上凉花》。
高校の時の同級生である。
「あぁ、久しぶりだな。えっと、卒業してから会ってないから10年・・・ぶり?」
「そうなるねー。けど覚えていてくれた事にびっくり」
「クラスメイトくらい、覚えてるだろ」
そう自分で言いながら、少し動揺している自分がいる。
高校を卒業して10年経ったこととか、相手の名前をちゃんと覚えていたこととか。
井上が変わらない笑顔でいてくれたこととか。
色んなことに、驚いている。
黒のタートルネックにベージュのトレンチコート。
足元はファーのついたショートブーツ。
大人っぽくなったなと、当たり前のことを感じた。