「ちょっと相談あってさぁ、」
なんて呼び出されたのは、あまり使われていない給湯室。
あたりをキョロキョロと見渡して、先に私を誘導すると、先輩が後に続いた。
先輩はあたしより4つ上。
すらっとした体型に濃いめの顔。
低い声と落ち着いた態度で、女子からの人気が高い。
同じ部署だから新人の頃からお世話になってるんだけど、周りの友達から羨ましいってばっかり言われる。
確かに。
近くにいれば先輩の良さばっかり見えてくる。
でも、仕事もできて安定している先輩が、あたしに相談って?
頭の中は?ばっかりが浮かぶ。
一瞬だけ。
一瞬だけだけど。
もしかしてこれって、告白……なんて妄想もいたけれど、そんな事ないない。
残念ながら、あたしにはない。
「ごめんな、時間取らせて。」
「いえ、先輩が相談なんて珍しいですね。」
「あー、まぁね。うん。」
どこかぎこちない顔。
「どうしたんですか?」
「えっとな、あのー。
俺の友達が隣の部署におるんやけどな。あ、ほら。こないだ昼買いに行った時に一緒におった奴。
俺よりもっと背高くて、へらへら笑ってる。」
記憶を辿ってみると、確かにそんな事があった。
先輩と仲良くしてる人は、やっぱりかっこいいんだなぁって思ったから覚えている。
「あー、いらっしゃいましたね。」
「それでな、あいつ今度誕生日やねんやんか。
何欲しいん?って聞いたら、その、自分と一回デートしたいって言っててさぁ……」
……ふんふん。
……。
「……えっ?!私とですか?!」
「……そう、やねん。どお?」
いやいや、ちょっと待ってよ。
あたし?!
いや、嬉しいけども。
先輩のお友達のカッコ良かった人でしょ?!あたしなんかでいいの?!
頭の中でプチパニック中。
先輩は申し訳なさそうな顔してるし。
え、これ。どうしたらいいの?オッケーしといた方が、いいって事……なんだよね?
「えっと、そのー、私なんですよね?人違いじゃなくて。」
「うん、そう。」
……そうか。なんだか気が引ける気もするけど。
「……わかりました。私で良ければご協力します。」
「……あー、そっか。うん、ありがとう。
じゃあ、あいつに言うとくわ。なんかごめんな。」
「全然、謝られるような事じゃないですよ!むしろ、私なんかでいいのかな?って。
先輩のお友達って、その、先輩みたいにかっこいい方だったから。」
「……。」
そしたら急に黙ってしまった先輩。
「……うーん、あいつの方がええ?」
「えっ?」
「やっぱ嫌や。今のなし。」
普段は見せない、先輩のふてくされた顔が見えた。
「あいつに取られたないし。」
そして、ぐっと近づいた顔。
「ここで俺がキスしたら、俺の事見てくれる?」
私は前から先輩を見てましたよ。
そして柔らかい唇が重なった。