「なっ……!?まさかお前──」


そう言った煌の目は困惑の色を浮かべていて、「嘘だろ?」と小さな声が聞こえた。


驚いているのは煌だけじゃなく、後ろに居る壱さんと彼方も同じで。


一番遠い所に居る十夜はこんな時でも無表情だった。


漆黒の瞳が真っ直ぐあたしを見据える。




──何度、何度見てもその瞳に惑わされる。


封印した筈の想いが、簡単に引き出される。



何度その力強い瞳に心を動かされただろう。

何度揺さぶられただろう。


それはきっと、数えきれないほど。



『あたしがその“男”だよ。陽の電話から煌に電話したのは、あたし』



心とは裏腹に冷めきった声。


自分でもびっくりする程普段通りで、思わず笑いそうになった。



『……逢う前に去ろうと思っていた。だから声を変えたの。だけど、意味無かったみたい』


「声を、変えた?その声?」



まだこの声に慣れていないのか、あたしを見る煌の瞳は困惑気味で。


そんな煌を見て、一度目を閉じた。


そしてゆっくりと開け、一人一人なぞっていく。



『これは“リン”の声。俺がこの姿になった時に使う』


「おと、こ……?」


『……この姿になるのは兄弟で出歩く時と獅鷹に行く時だけ。理由は女が獅鷹に出入りしてるのがバレない為』


「………」


『今日は友達を送って行った帰り、たまたま獅鷹に寄ったの。その時、陽が来た事を知った』


淡々と紡いでいった言葉を途中で区切り、皆から陽へと視線を移す。


陽も同じ様に横目であたしを見ると、小さく頷いた。