陽の笑顔、久しぶりに見た気がする。



──あの日。


中田に拐われたあの日から、陽の笑顔を見ていない。


あたしの中で残っている陽は、真実を告げたあの時に見たあの泣き叫ぶ表情で。


陽の顔を思い出す度、あの時の表情が鮮明に映し出される。


可愛い笑顔よりもより鮮明に。



もう見れないと思っていた笑顔がまた見れるなんて思わなかった。



「……陽、ありがとう。此処まで来てくれて」



陽の可愛い笑顔を見せてくれてありがとう。



「凛音……」


陽の右手があたしの左頬にそっと触れる。


指先から感じる陽の温もり。


陽が目の前にいるんだと実感させられる。



「俺、ずっとずっと考えてたんだ。どうすればいいのかって」


……陽?


頬に触れている手が微かに震えている。


陽の瞳を凝らして見れば、その瞳には段々と哀しみが滲んできていて。



「陽──」

「俺、やっぱり凛音と友達でいたい」

「………っ」

「鳳皇とか獅鷹とか関係なく、一人の人間として凛音と友達でいたいんだ」



不安を孕んだ瞳が真っ直ぐあたしを貫く。


その瞳からは迷いは一切感じられない。


陽の本心。


きっと考えて考えて考えて。

そして、悩んだのだろう。


「陽……」


震えている陽の指先が、そう告げている。