「あ、お父さん、咲ちゃん産まれたんだよ。昨日、家で産まれちゃって神野くんたち大騒ぎして…」

「そうか、桃に似てたか?」

「うん。美人さんになるよ」

 泣いてる場合じゃない。

 もっと、もっと話したいことたくさんあるのに、伝えなきゃいけないことたくさんあるのに。
 なのに、言葉が詰まってなかなか声に出来ない…。

 でも、お父さんは怒らなくて、ずっと優しい笑顔のまま私を見つめてきてくれて…。

 余計に涙が止まらなくなっていってしまいました。

「…あと、5分です」

 警察の人が言いにくそうに伝えてきてくれました。

 そうだ、時間はすごい短いんだ。

「ッ…お父さん、私」

「ん?」

「…私、晴野蓬がいい。お父さんの子どもでいたい。…だから、晴野って名乗ってもいい?」

「…当たり前だ。よも、お前は俺と桃の子どもで、智希と望亜の…咲のお姉ちゃんだ」

「…うん!」

「時間です。退室を」

「…はい」

 10分や15分なんてあっという間過ぎる。

 先に立ち上がった私をお父さんは優しい笑顔のまま送り出してくれる。