そこにいたのは、白髪の混じった髪を後ろに流して、つり目の灰色っぽい瞳が眼鏡の奥から私を射抜いている。背は170cmくらいだろうか。
灰色のスーツを着た男の人は40代後半くらいだ。
誰って言わなくても分かった。
分かってしまった。
どうして、どうして今さら私の前に現れるの?
「蓬、あぁ、本当に蓬なんだな」
「…あ、あなたは…」
「ずっと、探していたんだ。今まで辛かっただろう。もう、大丈夫だからな」
男の人はまっすぐに私のところにやって来て、抱きしめてくる。
でも、その瞬間湧き上がってきたのは決して優しいものではなく、恐怖が勝った。
男の人の腕を振り払って離れると、男の人は悲しそうに表情を歪める。
「蓬…」
「やめて、あなたは私を捨てたくせに!なんで今さら私の前に現れるの!?」
「蓬、違うんだ。聞いてくれ」
「いや、違うって何?ずっと、帰って来なかったくせに、私を1人にしたくせに!!」
そうだ、大きな広い家。暗くて、冷たくて、音のない家。
私は、ずっとそこにいた。
ずっと、ずっと、ずっと…。
ずっと1人で、そこにいた…。