決して上等とは言えないソファに向かい合って着席すると、小早川さんがため息まじりに口を開いた。


「……実は嵯峨さんにもアポイントをお願いしていたんですが、お断りされてしまって……なので桐原さんにはこうしてお会いできて本当にありがたかったんです。先生はこういった方なので、モチベーション維持が大変というか……」

「こういった方ってどういう意味よッ!」


すかさず篠田さんが口を挟む。


「まあ、嵯峨さんは業界内でも気難しい方で有名ですから。実は桐原も直接顔を合わせたことがないんですよ」

「え?!そうなんですか??あんなに共演されてるのに?」


御厨さんが言うほど共演しているとは思わないが、顔を合わせたことがないのは事実だ。


「そうなんです。だから先生がそんなに落ち込むことないんですよ」


苦笑混じりに声を掛けると、先生の顔がみるみる紅潮し、大きな目はキラキラ輝き出した。


「桐原さんっ!優しいッ!」


するとやはり、横から篠田さんがパッと身を乗り出してきた。


「いえ、事実をお話したまでです」


先生にはにこやかな笑顔を向けながら、自分にはビンビンと“不用意に口を開くな”オーラを浴びせてくるあたりさすがだ。

俺は素直に口をつぐむことにした。