新しい仕事の打ち合わせの為に事務所へ顔を出すと、交通費の精算の為に立ち寄ったという多岐川さんに会った。

打ち合わせまでにはまだ時間があった為、昨晩の出来事を一切合切相談することにした。


「見事に“最低なヒモ野郎”だな」

「………ですよね」


思ってた自己嫌悪の部分をピタリと言い当てられて、ホッとしている自分がいた。

深夜にマンションに押し掛けて、お礼のつもりで彼女の弱点である自分の声をチラつかせて、結局自分に都合の良いような扱いを彼女に強いているのだ。

自分を好きになって欲しいとこんなに願っているのに、結局“声”でしか彼女の気持ちをつなぎとめられていない自分が情けない。

どころか部屋の家賃を折半する話も切り出せなくて、のうのうとリビングを借りているのだ。


「その家具の処分費で、新居を契約する金も無くなった・と」

「……仰る通りです」


無駄にデカい身体をなるべく小さくする。


「篠田さんに釘刺されたばっかだって言うのに、参ったなぁ」

「申し訳ありません………」


とにかく平伏する他ない。

自分のような駆け出しの新人が、そうマスコミに狙われているとは思えないが、ここは先輩の助言に従うまでだ。


「何にも対策なんて浮かばねぇと思うが、取り敢えずこの話は預かっておくよ」

「ありがとうございます」

「周也はこれから打ち合わせだっけか。珍しいな、うちの事務所でなんて」

「打ち合わせと言うか、来期のアニメの原作者さんとの顔合わせです。ドラマCDのキャスティングから俺を指名して下さってて」

「それで今日はそのコスプレか」


しげしげと全身を眺められて苦笑する。

実際はコスプレと言われるほど奇抜な格好ではないのだが、普段着が酷すぎて、多生まともな服を着ているだけで“コスプレ”と揶揄されるようになった。

ちなみに今着ているのは、黒のニットにブラックジーンズ、赤のセルフレーム眼鏡に赤茶のブーツ。

今度の役は極貧美大生という役柄なので、素の自分の方が役に合っているのだが、さすがにそういう訳にも行かない。


チラリと時計を見ると、集合時間の2分前で、慌てて席を立つ。


「ヤッベ……!すんませんッ、行ってきます!」


片手を上げて応じる多岐川さんを余所目に、俺は待ち合わせの応接室に急いだ。