「…何度?」
キッチンから歩いてきた和君の声に気づき、反射的に体温計を切る。
「さ、37.8…とかだったよ…」
出来れば早くお家に帰りたい私は、体温計を渡しながら嘘を付いた。滅多につかない嘘は、いつもこういう時に使っている気がする。
…そして、和君はいつもそれに気づくんだ。
疑いの目で私を見つめた後、何を思ったのか体温計をピ、ピ、と操作し始める和君。
「あのさ、体温計って基本、電源付けたら前回の履歴出るって知らないの?」
…え?そ、そうなの…?
「39℃を37℃って、もうちょっと上手に嘘つけよ」
…ぅ、バレてしまった…。
ごめんなさい…と消え入るような声が出て、俯く。
見なくともきっと、和君は呆れた顔をしてるんだろう。
「あんな雨の中、突っ立ってるからだろ」
それを確信するかのように、心底呆れた様子の声色。
「傘も差さずに何してるんだお前…」
「…ごめんなさい…」
「あの教師にも気をつけろって、言っただろ」
「ごめん、なさい…」
「これ以上迷惑かけないでくれ、頼むから」
「…うん。本当に…ごめん…なさ、い…」
泣かない。泣いたらウザい奴って思われる。
全部私が悪いから、だから泣かない。
悲しくて何故か寂しさがグッと押し寄せる。それを誤魔化すように、下唇を噛み締めた。