「てか、なんで急に腕相撲?」

 ドライヤーで髪を乾かしてやりながら訊く。わしゃわしゃと髪を弄られるリィは、相変わらずはにゃー、とした顔をしている。

「……だって、いつのまにか、シンの方が筋肉、ついてるから……」

「あー、そりゃ、まあなー」

「力も強くなってるし、背も……ちょっと、伸びたし……どんどん、強くなるから……悔しい」

「いや、それは俺の台詞なんだけど? 最近組手でリィに勝てねぇし」

「きっと、すぐに逆転する。今日の組手も、ギリギリ一杯だった」

「ギリギリでも勝ちは勝ちだろ。一体どんな魔法だよ。俺の最速が避けられるって」

「ふふ、魔法なんかじゃないよ。シンは、父様の言ったこと、理解出来てないんだね」

「んん? なんか言われたっけ?」

「稽古つけてもらったあとに、いつも『解ったか?』って、言ってた」

「あー……」

 ハニーブラウンの髪をわしゃわしゃ乾かしながら昔を思い返す。

 父さんはあんまり教えるのが上手じゃなかった。だから直接戦うことで俺たちに教えようとしていた。

 最初は大分手加減してもらっていたけど、ある時期からまったく手加減されなくなった。

 格闘でも剣術でもこてんぱんに伸され、でも最後には必ず頭を撫でながら訊いてくるんだ。「解ったか?」って。

 それは解る時もあるし、解らない時もある。

 その中にリィには解って俺には解らないものがあったんだ、きっと。拳術の師匠であるローズマリー陛下からも同じような教え方をされたけど、やっぱり俺には解らないことがあったんだろう。