「ぐ、ぐ、ぐ」

 歯を食いしばってリィの手を押し込む。

「ん、んぅ……」

 対するリィも、顔を赤くしながら耐えている。ちょっと前まではそこから動かなかった。どれだけやっても決着はつかなかった。

 でも今は違う。

 しばらくリィは耐えていたけれど、あっという間に手の甲を絨毯につけた。

「おしっ、俺の勝ち!」

 余裕の笑みを向けると、リィはむうっと頬をふくらませた後、さっと左手を出してきた。

「……左」

「え?」

「左も、やるの」

 リィの瞳はまだ闘志に燃えていた。

「よっしゃ。来い!」

 俺たちはまたがっしりと手を繋ぎ合わせると、身体をプルプル震わせながら静かに戦った。


 結局、左も俺が勝った。

 リィは手の甲を絨毯に付けられた瞬間、ころん、と仰向けに転がった。そのまま天井のシャンデリアを眺めながら苦しそうな息を整える。

 起き上がって見下ろすと、やっぱり悔しそうに眉根を寄せた。

「……負けた」

「はは、当たり前だろ」

 なんて笑いながらほっと一安心だ。

 勉強は仕方ないとして、組手でも負けてんのに純粋な力勝負で負けたら立ち直れなくなるからな。兄としての面目が立ったので、機嫌よく妹の頭を撫でてやった。

 はにゃー、と擬音がつくような微笑みを浮かべて目を閉じるリィ。気持ちいいらしい。サラサラと指通りのいい髪を指先で弄ぶのは俺も好きだけど。

 湿り気を帯びた髪に、そういえば乾かしてやらないとと思い立ち、リィを立たせてソファに座らせた。