ミルトゥワの精霊女王召喚は、『ユグドラシェル』の血そのものに召喚魔法陣が組み込まれているから出来るのではないか──なんてことを従兄のルドルフは言っていた。

 だから俺が召喚出来るのは血のおかげだ。術式を理解していなくても、一応は出来るけれども……リィを見ていると、俺もちゃんと覚えたほうがいいのかなぁ、と思う。覚えられるかどうかは別にして、やっぱり妹に遅れを取るわけにはいかないもんな。

 とにかく、今は文字だ。字が読めないと本が読めない。学校の授業にも置いていかれてしまう。

 でもひとつ文字を詰め込むごとに、頭の細胞が死んでいく気がするんだ。……はあ。





 一日の終わり。

 頭の中にカタカナの形を浮遊させ、疲れた顔で歯磨きをしていたら、バスルームからリィが出てきた。

 薄い青のバルーンスリーブのパジャマを着たリィは、相変わらずぽやーっとした眠そうな顔をしている。まあ、今は本当に眠いんだろう。朝から晩まで勉強に修行にと頑張ったからな。

 風呂上りで濡れたままのハニーブラウンの髪は緩やかにうねっている。リィはちょっとだけくせっ毛なんだ。

 俺はこっちのくるくるした髪型の方がリィに似合ってると思うんだけど、リィは真っ直ぐにしたいらしく、朝の修行の後、琴音からもらったヘアアイロンで一生懸命整えている。そんな姿を見ると、リィも女の子なんだなー、と思う。稽古中は容赦なく殴ったり蹴ったりしてくるのにな。