「何故逃げますの!」

「そりゃ逃げるだろ!」

 急に来ていきなり何すんだ、とシンは逃げる。

「逃げずにわたくしの拳を受け止めなさい!」

「なんで! てかお前、何しに来た!」

「わたくしは貴方の……」

 青白い闘気が拳を覆う。それを見たシンの額から汗が滴り落ちていく。あ、これ、ヤバイやつだ、と。

「心臓を撃ち抜きにきましたのよ!!」

 恐ろしい台詞とともに、拳が振り抜かれる。雪の上を素早く転がって回避したシンの代わりに、太い幹の桜の木がメリメリと音と立てて倒れていった。それを青い顔で見つめるシンとリィ。

 少女はうふふ、と笑った。

「どうかしら。わたくしも少しは強くなったでしょう?」

「少しどころじゃねぇよ」

 シンが突っ込んだ。






 少女の名はシャルロッテ=サラス=ユグドラシェルといった。惑星王の第三子にして第一皇女。シンとリィの、ひとつ年下の従妹である。

「これが雪というものなのですね。なんと儚く、美しい景色なのかしら……」

 部屋の窓から庭に降り続く粉雪を眺め、ほう、と溜息をつく皇女は、それはそれは美しかった。

 シャルロッテは聖母や女神と崇め奉られる皇后ローズマリーに良く似た容貌の持ち主だ。幼いながらも人目を引く美貌に、しゃんと背筋の伸びた姿勢には気品を感じさせる。

「ロッティ……どうしてこっちに?」

 三人分の紅茶とクッキーをテーブルに並べながらリィが訊ねる。

「わたくしの強さを見てもらうため、ですわ」

 紅茶の香りに目を細めながら、シャルロッテは言う。