「聖くんに剣を習いたいそうですね」

「あ、はい」

 急に話題を変えられて、シンは慌てるように頷いた。

「どうして剣を習いたいのですか? 見たところ、シンくんは相当な剣の使い手のようですけれど」

 その問いにシンは少しだけ考えてから、真っ直ぐに背筋を伸ばして答えた。

「護りたい人がいます」

 しっかりとした、落ち着いた声で、言う。

「妹です。妹は、俺のために何度も怖い思いをして、なのにいつも俺の心配をして助けてくれてます。……俺は兄として、そんな妹を護りたいと、ずっと思っていました。もう二度と傷つけない、泣かせないって誓ったんだけど……まだまだ未熟だって、思い知らされるばかりで」

 李苑が頷きながら静かに耳を傾けてくれているのを見ながら、シンは言葉を続ける。

「なのに、どんどん護りたい人が増えるんだ。両親が生まれた星の人たち。小さな妹。こっちの星に来て知り合った人たち。……それから」

 シンは花壇で控えめに咲く、薄紫色の花へ視線を向けた。『ノコンギク』という、野菊の花に。

「……大切な人が、出来たのね?」

「はい」

 シンは頷く。

「俺が大切だと思った人たち、みんな。俺が、護ってやりたいと、思います」

「護ってあげるのは、貴方ではなくてはいけないの?」

「はい」

「どうして?」

「俺が、大切な人たちの笑顔を見たいから」

 山の陰に夕日が沈む。医院の白い建物も、周りの家並みも、辺り一面が深い橙に沈んでいた。その中で赤い髪が轟々と燃え盛っているように見える。

「そして俺は、彼らと並び立つに相応しい男でなければならない。……あいつらは俺の尊敬する武道家であり、剣客であり、ガンマンだから。俺も彼らに誇ってもらえるような『勇者』になるんだ」

「『勇者』?」

「みんなを護れる人のことです。……この剣で」

「……シンくんは、護るべきものの盾になりたいの?」

「はい」