「この間はありがとうございました!」

 シンは頭を下げる。

 先日、おかしな魔法陣のおかげでリィと体が入れ替わってしまったときに、術力中和能力を持つという彼女に助けてもらったのだ。

「ふふ、どういたしまして」

 李苑は柔らかく微笑んだ。

 彼女は聖と同じく、非の打ち所の無い整った容姿をしていて、ともすれば近寄りがたさを感じてしまいそうだが、李苑の笑顔を見るとほっとした。春の陽だまりのような印象だ。

「コスモス? ノコンギク?」

「え?」

「シンくんは、どのお花が好き?」

 柔らかな笑みを浮かべた李苑にそう訊ねられて、シンは少し赤くなりながら、もごもごと答えた。

「……ノコン、ギク?」

「そう。かわいいお花ですよね、ノコンギク」

 白衣の裾を撫でながらしゃがみ込んだ李苑は、花壇の中で控えめに咲いているノコンギクを見つめる。その後姿を眺めながら、シンはふと、疑問を口にした。

「あの……この間の、貴女の力は……」

「術力中和のことですか?」

「あれは、どういう力なんですか? 俺たちの持つ魔力とは違うものだったけど。さっきの先生の結界っていう力もそうだ。見たことのない力だった」

「うーん、そうですね……」

 李苑はノコンギクを見つめながら、言葉を選ぶように、ゆっくりと話す。

「原理はシンくんたちの持つ魔力と似たようなものなのかもしれません。この身に元々備わっている不思議な力で……普通の人にはない、ものですね」

「地球の人たちには、ってことですね」

「そうです。……シンくんの星の人たちは、みんな魔力を持っているのでしたね。ふふ、不思議なところ」

「……俺には、貴女たちの方が、不思議です」

 そう言ったら、李苑は肩越しに振り返り、ふわりと微笑んだ。