ハッと気がついたときには、待合室の長椅子に座っていた。
「リィシンさーん、リィシン=グリフィノーさーん」
受付の事務員さんに名前を呼ばれている。
「は、はい?」
慌てて立ち上がりカウンターへ向かうと、保険証──こちらの世界に来たときに、橘家の人たちが用意してくれた──と、青い診察券を渡された。
「まずは保険証をお返しいたしますね。それから、こちらが診察券になります。次回来院される場合はこちらの診察券をお持ちください。リィシンさんは中学生ですから診察料はかかりません。お薬も出ていませんから、このまま帰って大丈夫ですよー」
「は……はあ?」
「お大事にどうぞー」
にこにこ笑顔の事務員のお姉さんにそう言われ、シンは訳の分からないまま医院を出る。
(な……何されたんだ、今!)
分からない。
結界に落とされて、ただにっこり笑顔で「出てけ」と言われただけだ。
てか、「出てけ」って、命令形。
「……先生って、わりとSっぽい?」
そのことにやっと気づいた鈍いお兄ちゃん。
しかし、せっかく自宅にまで訪ねたのだ。このまま引き下がることは出来ない。診察が終わるまでここで待っていようと決意したところで、医院前の花壇に気づいた。
綺麗に整えられた花壇の中には色とりどりの花が咲いていて、その中にひとつだけ、知っている花があった。あの薄い紫の小さな花は、前にリィに教えてもらった……。
「お花、好きなんですか?」
急にそう声をかけられて、シンはハッと振り向く。
「あ……李苑さん」
声をかけてきたのは、白衣を着た女性だった。
亜麻色の長い髪を結い上げた、線が細く、思わず護ってあげたくなるような色白美人。この人が櫻井聖の妻、李苑だ。彼女も医者だと聞いている。
「リィシンさーん、リィシン=グリフィノーさーん」
受付の事務員さんに名前を呼ばれている。
「は、はい?」
慌てて立ち上がりカウンターへ向かうと、保険証──こちらの世界に来たときに、橘家の人たちが用意してくれた──と、青い診察券を渡された。
「まずは保険証をお返しいたしますね。それから、こちらが診察券になります。次回来院される場合はこちらの診察券をお持ちください。リィシンさんは中学生ですから診察料はかかりません。お薬も出ていませんから、このまま帰って大丈夫ですよー」
「は……はあ?」
「お大事にどうぞー」
にこにこ笑顔の事務員のお姉さんにそう言われ、シンは訳の分からないまま医院を出る。
(な……何されたんだ、今!)
分からない。
結界に落とされて、ただにっこり笑顔で「出てけ」と言われただけだ。
てか、「出てけ」って、命令形。
「……先生って、わりとSっぽい?」
そのことにやっと気づいた鈍いお兄ちゃん。
しかし、せっかく自宅にまで訪ねたのだ。このまま引き下がることは出来ない。診察が終わるまでここで待っていようと決意したところで、医院前の花壇に気づいた。
綺麗に整えられた花壇の中には色とりどりの花が咲いていて、その中にひとつだけ、知っている花があった。あの薄い紫の小さな花は、前にリィに教えてもらった……。
「お花、好きなんですか?」
急にそう声をかけられて、シンはハッと振り向く。
「あ……李苑さん」
声をかけてきたのは、白衣を着た女性だった。
亜麻色の長い髪を結い上げた、線が細く、思わず護ってあげたくなるような色白美人。この人が櫻井聖の妻、李苑だ。彼女も医者だと聞いている。