シンとリィは同時に地面を蹴り、周囲を囲むスーツの男たちへ向かっていった。シンは敵のど真ん中に突っ込んで逆立ちし、倒立回転を披露。

「シンっっ、見えちゃうっ!」

 リィは向かってきた男たちの手を取り、片っ端から投げ飛ばしながら叫んだ。

「こんなときに気にすんな!」

「気にするっ……!」

 男たちを投げ飛ばしながら、リィは羞恥に頬を染める。スカートで逆立ちなどすれば中身が丸見えである。そりゃ恥ずかしいというものだ。

「めんどくせえっ……」

 面倒くさがりながらも、妹のために倒立を止めて拳を構え、襲いかかってくる敵を打ち払おうとする。

 けれども対象物との距離感がいつもと違う。一撃で沈めようと繰り出した拳は、敵の肌を柔らかく撫でただけだった。

 それほど体格に違いはないと思っていたけれど、その微妙なズレや力の差が、いつもの自分の感覚とズレていて、思うように攻撃出来ないのだ。

 シンとリィは再びお互いの背を合わせるようにして立った。

「ヤバい。お前の体じゃなんか違う」

「うん……力加減が、難しい……」

 シンがいつものように立ち回れば、リィの体の力がそれについていかない。

 リィがいつものように立ち回れば、シンの体の力が過剰になり、空振りしてしまう。

 どうすれば。

 双子は少しの間逡巡し、まったなしで襲いかかってくるスーツの男たちの攻撃をかわすべく、それぞれ回転しながら離れた。その途中、一瞬だけ視線が交わる。

 本来の自分の姿で動く片割れの姿に、改めて気づく。

「……俺は、リィで」

「私が、シン……」

 2人はそう呟いて、頷き合う。

 シンはリィで、リィはシン。今自分は別人になっているけれど、それはいつも組手をし、次にどう攻めて来るのか予想出来るほどに毎日相手にしている人物だ。

 ならば、想像出来る。

 今自分が、どう動けば最適なのかを。

 シンが、リィがどう動いていたのかを脳内でトレースして。その通りに動けばいい。