以下、回想。



 ふわり宙に舞う白い布団と、翻る黒いプリーツスカート。

 チラリ顔を覗かせた純白。

 見開かれる目の前の黒い瞳。

(あ)

 チラリ見えちゃったことに気づいたシンは、条件反射のように体を回転させていた。

(やべ、リィのぱんつが)

 それが自分の反射だったのか、それともリィの体に染み付いた反射だったのかは分からない。とにかくくるりと綺麗に回転した。

 ベッドの上という柔らかな足場にも関わらず、見事に安定した軸にシンは舌を巻いた。

(ブレない。すげぇ!)

『霸龍闘おおおおっ!』

 叫びながら、肘打ちを側頭に。

 更にもう一回体を捻り、よろけた霸龍闘の側頭目掛けて足を振り上げ、その柔軟さに感心した。

 足が、伸びる。

 ぐんと、遠くまで吹っ飛んでいきそうなくらい、思い切り。

 単に力だけで押しているわけではない。バランスの取れた体全体が機能し、足先に向かって伝わっていく凄まじい力感。──これぞ、真の『黄金比率』か!

『今見たものは忘れろおおおおおおっ!!!!』

 しなやかな鞭のようなリィの足は、見事に霸龍闘を吹っ飛ばした。それを眺めながら、シンは思い出していた。


『貴女は近接戦闘向きではありませんねぇ』

 ローズマリー師匠に師事を仰いだとき、リィは最初、そう言われていた。

『けれど、この私が教える限り、女だからとか、力が弱いからとか、そんな言い訳はさせません。私は貴女に力がなくとも戦える術を教えます。それを生かせるかどうかは、貴女の努力次第ですわ』


 ああ、努力したのだな、とシンは理解した。

 力に差のある自分と対等に渡り合えるだけの体術を、彼女は努力して会得した。ずっと傍で見ていたけれど、こんなことになって改めてそれを知ることが出来た。

 だから、思う。

 自分はリィの倍以上、努力しなければならないのだと。



 ──まあ、そんな風に改めて妹に敬意を覚えたわけではあるが、哀れなのは霸龍闘である。

 彼にしてみれば、『見た』わけではなく、『見せられた』被害者なのだ。それなのにこの仕打ち。なんとも理不尽で酷い話だ。