一時間目は何事もなく授業が終わった。

 しかし二時間目、数学の時間。

「では、この問題が分かる者」

 数学教師が生徒たちを振り返るも、誰も手を挙げない。

「はは、みんな目を逸らしやがったな? うーん、じゃあ、リィファに頼むか」

 数学の成績は学年トップのリィが指名を受けた。リィは立ち上がろうとして、今、自分がシンであることに気づいた。リィの前の席に座っている赤点王シンに、一次関数の問題など分かるはずも無い。見るとなんか震えているし、白目を剥いて泡を吹きかけている。

「……せ、先生っ、リィの具合が悪そうなので、保健室に行ってもいいですか」

 リィが立ち上がってそう言うと、数学教師もうん、と頷いた。

「確かに顔色が悪いな。リィシン、妹を連れてってやれ」

「はいっ」

 リィはシンを立たせると、腕を引っ張って保健室に連れて行った。




「危うく正体がバレるところだった……ありがとな、リィ」

 ふうー、と息を吐きながら額の汗を拭うシン。一応、泡を吹くほど式とグラフを眺めていたけれど、ちっとも分からずに頭がパンクしてしまった。体は入れ替わっても脳の中身までは変わらないらしい。

 ちょうど保健医が不在であったので、二人は普段通りに会話する。

「シンはこのまま、次の授業も休んで……」

「ええっ、次体育だろ? やっと退屈な授業から開放されると思ったのに! 今日お前らバドミントンだろ、バドミントン!」

 腕を振り回してやる気満々のシンに、リィは冷たい視線を送る。

「女子更衣室、覗きたいの……?」

 えっ、とシンはリィを見上げる。現在彼はリィなのである。だから当然、着替える場所は女子更衣室。

「野菊ちゃんのお着替え、覗きたいのはわかるけど……他の子もいるし……」

「だっ、誰が覗くかっ!」

「ふうん……」

 リィの兄を見る目が冷たい。お兄ちゃん、色んな意味で心臓に大打撃である。

「鬼龍ちゃんにバレたら、絶招通天炮だからね……」

「う……わ、分かったよ、ここで大人しく寝とくよっ」

 シンは素直に頷いた。