「兄ちゃんも姉ちゃんも元気ねぇだ。なじょしたの?」
通学途中、シルヴィが心配そうに訊ねてくる。
「兄ちゃんはあんましご飯食ってねがったし、姉ちゃんはいづもより食い過ぎで腹痛くしてだし……どっか悪ぃのが?」
「いやっ、なんでもないぞ?」
「うん、私たちは元気……」
兄ちゃん、姉ちゃんの返答に、シルヴィは首を傾げる。
先に喋ったのが『リィ』で、後に喋ったのが『シン』だからだ。正体を気取られるなとか、かっこよく言い放っていたのはどこのどいつだ。さっそくバレそうだ。
「はにゃ? 兄ちゃん、『わだす(私)』って言うんだっけか?」
「はうっ! ち、ちが……え、えと……俺は、元気だ!」
リィはなるべくシンに見えるように、元気いっぱい声を上げて微笑んでみせた。それでもいつものシンと比べたら大人しい声だけれども。
「う、うん、私も……元気だ、よ? だから、シルヴィ、は、心配し、ないで……」
若干顔を引きつらせながら、シンも笑う。のんびりした口調にしようとしているのだろうが、意識し過ぎておかしなことになっている。
シルヴィは首を傾げたものの、前方に咲花や龍之介の姿を見つけて走っていってしまった。その後姿を見送って、シンとリィはふう、と息を吐く。
「気合い入れろ……俺はリィ、お前はシンだ」
「うん……わかった……」
コクリ、と頷いたところで、後ろから声をかけられた。
「シンくん、リィちん、おっはよー!」
その元気の良い声に、二人は振り返る。ツインテールの髪に、健康的に日焼けした肌が眩しいシンの彼女(将来の嫁)、野菊が駆け寄ってきた。
「お、おうっ、野菊ちっ……おは、よ」
「野菊……ちゃん、おはよー……」
気合を入れて振り返ったものの、まだ何かおかしい。日頃の習慣はそうそう直るものではないようだ。なんだかおかしい2人に、野菊が猫目をきょとん、と丸くしている。