何枚もの紙を見比べていたリィが、深海色の瞳を見開いた。

「こ、これ……!」

「なんだ、何か分かったかよ!」

「薄い紙に描いたのが間違いだった……変に重なって多重構造になってしまったの……中途半端にしていた陣が、上と下で重なって、繋がってしまったみたい……だから、この術式が出来上がって……そこに私やシンが触れたことで、魔法陣が発動してしまった……」

「つまり?」

「……この魔法陣で、私たちの体と心が、入れ替わった」

「でも、触ったのは寝る前だぞ? その時は何も起きなかったじゃないか」

「心と体に負担がかからないよう、ゆっくり術が発動したのかも……うん、そういう、式が出来てる……」

 注意深く何枚もの魔法陣を読み取りながら、リィは言う。

「それで、元に戻す式は?」

「……わから、ない……」

「なんだってぇ?」

「だって、これは偶然に出来たものだもの……しかも多重構造だなんて複雑過ぎて、全部解読するには時間がかかる。元に戻す方法なんて、すぐには分からない……」

 双子は絶望的な顔で魔法陣を見下ろした。

「……破いても駄目か?」

「だめ……もう術は発動してるんだもの。余計な手を加えるのは危険……」

「じゃあ、どうすんだよ……」

 なんだかもう、考えることを放棄したくなるような事態だ。もう一度寝たら元通りになるのではないか──そんな期待を少しだけ持ってみるけれども、そんな不確定な希望を持てるほど楽観的にはなれなかった。

 事態が急を要してきたからだ。

 二人は青ざめる。

 タラリと冷や汗を流す。

 サニタリールームのトイレの前で。


 時間が流れる。

 時間だけが流れていく。