「雨にも名前があるんだな」

「うん。いろいろ、あるんだよ……。今日みたいな、しとしと降り続く雨は……『地雨』」

 徐に顔を上げたリィは、灰色の空を指差す。

「じあめ?」

「そう。……青葉に降りかかる雨は、『翠雨』」

 今度は広い庭の向こう側に立ち並ぶ、青々とした葉を茂らす林を指差し、言う。

「すいう?」

「翡翠のすいに、雨」

「翡翠……あー、ああ、なるほど、大地の自然、青葉に降る雨か」

 リィの翡翠色の瞳を覗き込み、ようやく色のイメージが湧いたシンは納得して何度か頷く。そんな兄に微笑みかけながら、リィは続ける。

「梅雨に入ることは『入梅』の他に、『栗花落(ついり)』ともいうんだって。それから、7月7日に降る雨は、『催涙雨(さいるいう)』っていうの。これには、七夕っていう伝説のお話があって、織姫、彦星と呼ばれる星があるんだけど……2人は夫婦なのに、一年に一回しか逢えないんだって。その彦星が、織姫に会いに行くために、牛車を洗うんだけど……その水が7月6日に雨になって降ってくるの。それは『洗車雨』っていうんだって。……それで、どうして年に一回しか逢えないのかっていうとね……」

 七夕伝説はなかなか興味深い話だったため、リィは兄にも話して聞かせてやったのだが、シンは納得いかない顔で首を傾げた。

「なんで夫婦なのに年に一回しか逢えないんだ?」

「遊んでばかりで、仕事をしなかったから……」

「でも反省してるんだろ? もう少し増やしてやったっていいじゃないか」