「1年半好きな人がいるってそれ、俺のことだろ。いい加減捨てろや。呆れて構わねえから、いい加減さ。もうわかったろ?」



ずっと続いた沈黙を破ったのは彼で、
その言葉に息を飲んだのは私だった。


「第一、俺には恋人がいるのも知ってんだろうよ。それで今お前を抱いた俺も飛んだクズ野郎だけどね。俺にお前は愛せない。」




「…天音さん。」




「ん。」



「好き、だよ…。」




「お前、まだわかんねえのかよ。」
あからさまに呆れた様子で笑いながら、彼は私を見て再び目を見開いた。



「それでも、良いんだって、それでも良いって、言ったじゃん。」



目を開かなくても涙がポロポロと溢れ出して、だけどそれはあまりにも彼を困らせてしまうこともわかっていたから、歯をくいしばるように、唇を噛むように、彼を見つめながら声を絞り出した。




夏始め、清々しい空。



悲しいくらい晴れた日の、
一つの家の片隅で。




「俺はお前を愛せない。」




「それでもいいなら、付き合おう。」





遠くで、セミが鳴く。



「何番目でもいいよ、好きだよ。」





蝉の音に溶けてしまいそうなくらい小さな声を彼は拾って、また、本当に頭が悪いねと頭に手を置いた。





一線を越えた日。