「私、ですか…?」

「はい、よろしければぜひ…」

「私の名前は…………」


小さな声で、
また笑いながら。


そんな風に少しだけ、
自分の名前を初めて伝える。


素敵な名前ですねと、
彼女も笑った。

つられるように私も笑って、
これでお友達ですねなんて握手をした。


名前しってるだけでですか?
という私の手を取ると鈴さんは、
顔見知ってお話しして、
ましてや泣きあったのなら。
それで十分じゃないですかと屈託のない笑顔で。



その優しさに胸が熱く、
痛くなっていく。

じわじわと、ひしひしと。



眠気に押し倒されて、
感情に負けそうになる夜に、
今日彼女と出会った日を都合よく忘れようと、家に帰っては眠るを繰り返した。



起きては寝る。起きては寝る。
そんな風にただ過ぎて行く時間に身を任せて生活をし、そうやって忘れよう忘れようと、味のないガムを噛み続けるように真実に上書きをして。


中身よりもかみごたえを重視していた。