蝉の声が鳴り響く。
私は、腕の中で泣く彼女にただ、
得体の知れない敗北感を感じてしまった。



ああ、私は。
こんなに綺麗じゃない。


そう、感じてしまった。
だけど、自分と彼女を比べてわかってしまったことで。それはとても失礼な気がして。


しばらくして、
直感的に全てがわかった。
全てがつながったような。


それはカチャッと音を立ててはまるピースのような、糸がやっと、まっすぐ伸びたような。




あーちゃんの彼女は、
愛さなきゃいけないと言った人は。


この人だ。


あった場所も取りに帰った場所も。
多分、あーちゃんの家で。



悔しくない。
わかっていた。



辛くもない。
こんなに素敵な、こんなに素敵な人。


この人を裏切ることになる私。


ねえ、すきだよあーちゃん。


幸せになってくださいなんて、
そんなの似合わないのに。


初めて、心から願いたくなってしまった。自分が隣でなくていいと。


わがままが通るなら。
でも、あーちゃん。あーちゃん。


ごめんね。




彼女を抱きしめたまま、
私も泣いた。


誰にも、私がなんで泣いているかなんてわからない。

だから今だけ一度だけ、
ごめんなさい。



あなたを裏切ってる私に、
あなたを抱きしめる資格もないのに。



2人で泣いて、そのあとどちらともなくスコップを手に取った。


泣きながら拭いながら、
汗をかきながら日が暮れるのを、
感じながら。


深く深く穴を掘った。
会話もなく、涙は止まらないまま。



夕闇に呑まれそうな、
星がきらめきだした世界でやっと、
土の中で寝かせてあげることができた。




泥だらけな手を合わせて、
安らかに眠れますようにと。



そのあと2人で空を見上げて、
2人でぼーっと風に吹かれた。


やっぱり、異様な光景だ。
だけどすごく、愛おしく思わずにはいられなかった。


あーちゃん、ごめんね。