いつも通り家に足を運んだあの日。
あーちゃんの家は一軒家で、それは両親が置いていった唯一のものらしい。



もう27にもなって、親のことなんて引きずりもしねえよと顔色ひとつに変えず言うけれど、そんなの、意地だよと言ったっけ。


どこにでもあるありきたりな話だと、
この日笑って話してた。


何度インターホンを押しても応答がないからダメ元で扉を手前に引く。


ガチャっと響く音とともに、あーちゃんの匂いが辺りに広がった。



この時はまだ天音さんと呼んでいて、
恐る恐る声を上げた。


「天音さん…?はいるよ…?」



声はしないけれど、
かすかに気配はする。


入ってすぐ見える階段を上って、手前から二つ目の右側の扉があーちゃんの部屋だ。



コンコンと、軽くノックをする。



「はい、るね…?」

得体の知れない緊張に襲われて、そっと息を飲む。



「生きてる…?」


そっと顔を覗かせると、
そこには窓の向こうを見てぼーっと体育座りをしているあーちゃんがいた。