「へえ。」
でもそれは逆にあーちゃんの起こるポイントだったようで。
「もう、いい。」
その二言の後で本を開いて、
また黙々と読み始めてしまった。
「あーちゃん、ごめんね。」
そうおどけて笑って見ても、
黙々と読み進める。
どうしようもないから、
部屋を見渡す。
勉強机と、ベッド。
木の模様をした小さなタンス。
それから本棚。そしてそれに寄りかかるアコースティックギター。
どうせ暇だからと、そのまま布団に顔を埋めた。
あーちゃんの、匂いがする。
近くにいるのに誰よりも遠い。
そんな関係なんだろうねと、
自分で笑う。
惨めと言われようとなんと言われようと、結局いつまでもこの関係は続けられないだろうし。
私は、私であることも許されないんだろうねなんて、顔を上げて月に笑う。
しばらく経った頃、
あーちゃんが口を開いた。
「おまえも俺なんかといる時間を読書にでも費やしたらもっといい女になれるんじゃねえの。知らねえけど。」
「あーちゃんが知らないだけで、小説とか書いてるかもよ?こんな惨めな自分を題材にして。」
「惨め?」
「きっと私が書くなら、同情してもらえるように書くでしょ?まあ、私は自分が惨めだなんてこれっぽっちも思わないけどね。」
そこまで言ってつけたすように、
「だって、好きだもの。」
と言ってまた、顔を伏せた。
あーちゃんの手元から、
本を閉じる音が聞こえる。