「今日、泊まっていけば。」
「人肌恋しいの?」
あーちゃんは返事をしないまま、
すっと立ち上がっておいでと手を広げた。
甘えそうにも、飛び込んでしまいたくもなったから。
競争しようと駆け出した。
帰って泣きたかったな、
彼女さんとうまくいってないのかな、
すれ違いより胸が痛い、
愛される妄想は避けて、
夢ですら見ないようにしていた。
私は、
天音さんが好き。
だけどそれは、
愛されないことが条件でもあった。
少し遠くまで来すぎたかなと振り向くと、あーちゃんがタバコに火をつけているのが見えた。
「歩き煙草、いーけないんだ。」
「おまえわかってないけどいま割と夜中だからね。11時も過ぎてるし。今くらいいいだろ。」
「大人ってずるーいーんだ!」
「おまえ、いくつだよ。」
ふふふと笑って、あーちゃんの後ろに回った。
ちょろちょろすんな、鬱陶しいだなんて言うから、調子に乗って後ろから抱きしめた。
服に顔をうずめる。
「ねえ、好き。あーちゃん、好き。」
そして、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、
愛さなくていいんだよ、と零した。
最後に少しきつく抱きしめて、
突き放すように腕を話した。
呆れた顔で私を見て、
だけどどこか物悲しそうで。
何も悟りたくなかったから、
何も知りたくはなかったから、
あーちゃん好きだよ、
あーちゃん結婚しようねなんて。
精一杯笑った。
綺麗な、満月の夜。