呆れ顔の蒼に、満面の笑顔を向けた。

『…あっ!そうだ…綾音…』

蒼は突然立ち止まり、何かを思い出したようだった。

『え?なに?』

少しの間、蒼は何か考えながら黙り込んでいた。

『…まぁいっか。あとで言う…』

『何よ〜っ!気になるじゃん…』

足早に歩いてゆく蒼の背中を、あたしは追いかけながら叩き続けて、何とか話を聞き出そうとする。

『後でって言ってんだろ。チビっ』

『…チ、チビで悪かったわねっ!』

昔から口ゲンカなんて、日常茶飯事。
何でもいい合える、彼はあたしの幼なじみ。

『やべっ…走んねぇと遅刻だっ』

季節は春。
薄いピンク色をした桜の花びらが、ひらひらと舞い散る中、ポカポカと暖かな太陽の光を浴びて、あたしたちは学校へと走ってゆく。
今日から始まる高校生活。
一生に一度の3年間。


この時はまだ、知りもしなかった。
あたしたちずっと、ずっと一緒にいられると思ってた。
"運命"なんてもの、考えたこともなかったから。
穏やかな日々は、少しずつ、崩れ始めてゆく…。


"桜ヶ丘高校"
今日からあたしたちが通う学校だ。