「なあー、俊也(しゅんや)。“高野 すみれ”って知ってる?」




太陽が窓から降り注ぐ、残暑が厳しい夏の日の昼休み。




俺は弁当を食べながら、親友の俊也にそう尋ねた。




「“高野 すみれ”? 知らねー。なんだ、蒼太。ついに恋でもしたか」



「はっ? 違うって! 実はさ……」




俺は、俊也に昨日の出来事を話した。




一応、いつあの彼女に会えるか分からないのであの傘は常に持ち歩くことにしている。




「七海(ななみ)なら知ってんじゃねーの? あいつ、なんか友達多いし」




七海―――船橋(ふなばし)七海は、俊也の彼女だ。



ついこの前付き合い始めたばかりの二人は、美男美女のお似合いカップルであ
る。



そうか……船橋さんに聞いてみれば分かるかもしれない。



俺がそう考えている間に、俊也が俺の弁当からソーセージをひとつ取った。



「あーっ。俊也。何取ってんだよ!」



俺が気付いた時には、ソーセージはもう俊也の口に消えていた。