いつも通り薬売りの仕事を終え俺は家の裏にある山に向かう。

ガサガサと草を掻き分けると開けた明るい場所に出る。

「よぉ、悠唄」

「あ、歳三」

其処には既に来ていた悠唄が笛を片手に立っていた。

俺がここを教えてからこいつは同じ時間にここに来て薄暗くなるまでここで笛の練習をしている。

俺はただここに来てその音色をきいているだけだ。

お陰でその時間までに仕事をしなくては行けない為必然的に仕事も素早くなる。

そんな俺を不審そうに見つめていた兄貴達。
でも絶対この事は誰に言わねぇ。

「ね、歳三。」

「なんだ?」

突然悠唄が話しかける。
こいつは全然表情が変わらないが意外とお喋りだという事が分かった。

もっと笑えばいいのに。

「その箱って薬が入ってるの?」

「あ?あぁ。これで薬を売り歩いてんだ」

俺がそう答えると悠唄はふぅん、と言うと薬の箱から目を逸らす。
なんだ?いきなり、、

でも、そういや俺の事全然話してなかったな。
こいつ俺の事何も知らないのにこんなとこ……

一応俺男だぜ?
男とこんな誰もこない静かなとこに二人きりって、、危機感持てよ!

いやただ単に俺がこいつに男として見られていないだけか、?

本当はモテんのに、、
がっくしと肩を落とす。

〜♪

いや俺はなんでこいつの事をこんなに考えているんだ。

俺はただこの笛と歌声に惹かれただけだ!

〜♪ーーーッ。

ふぅと息を吐く悠唄の声が聞こえる。

「お前、ほんとうまいな」

「ありがとう」

褒めてもピクリとも顔を動かさねぇ。
でも一つ気が付いた。こうやって褒めると少し目を細めて必ず右下を見ること。

多分こいつの喜んでいる表現らしい。

どんどん知りたいと言う思いが募る。
感じた事のないこの想いに戸惑う事しかない。

なんか負けてるみてぇで悔しいな…

今まですこーし笑えば女は擦り寄ってきたし女は俺を煽てて引き止めようと必死だった。

なのにこいつは……
靡かないどころか、俺が翻弄されちまってる、こんな事初めてだぜ。

「帰ろ」

悠唄が笛を下ろし振り向く。
俺は返事をすると軽くなった薬箱を背負うと仲良く並んでそこを後にする。