結城さんはわたしがメモの文字を読み終えたのを見計らって、運転席に向く。

結城さんは、声を諦めているんだと思った。

店に入ると、洗練された仕草で夜景の綺麗に見える席に案内される。

前菜、メイン、タイミング良く出される料理の数々は、彩りも盛り付け方も、味も絶妙で、昼食は青汁で済ませることが多いと話した結城さんと結びつかない。

それに、結城さんに出される料理の量は、若干だけど、わたしへの量より少なめな気がする。

──薄味だと思うが大丈夫か?

薄味?と思いながら「はい」とこたえる。

──親父がオーナーをやってる店だ。作家先生方の接待によく使う。先生方の好みも此方の好みも覚えてくれているようだ。此方の我が儘も言える数少ない店だ

結城さんが接待もしていることに驚く。