結城さんはこたえずに、ゆっくり歩き出す。

社内では凛とし、颯爽として「デキル」オーラ全開にしている結城さんが、消えてしまいそうなほど儚げに見える。

この人は、息抜きをすることがあるんだろうかと、心配になる。

結城さんは十数歩進むたび立ち止まり、胸に手を当て、息を整える。

駐車場に着き、紺色のキャリーバックを助手席に、無造作に置く。

運転席に座り、紺色のキャリーバックを開け、酸素ボンベに繋げた管を装着し、バルブを捻り、ホッとしたような顔をする。

メモとボールペンを手に取り素早く書きつけ、こちらに向ける。

──リハビリ、付き合わせてすまなかったな

「いえ……」

待ち時間、声を掛けてきた女性のことは黙っておくことにした。

──効果の期待できないリハビリで毎回、発作寸前なんて洒落にならないよな