「そうなんですか?」

気づかなかったなと思う。

そもそも、結城さんの手をマジマジ見たことがないなと思った。

「結城くんは何でもないみたいにしているけれど、今でも後遺症で痛みや痺れがあるらしいの」

「あの……今でも結城さんと交流があるんですか?」

「あ……わたし、編集部の相田と半年前、結婚したの。結城くんが怪我をした事件で病んでしまって……数年ずっと、入院していたんだけどね。結城くんの小説に励まされたの。……『限りなくグレーに近い空』にも『空と君との間には』にも」


──この人が、あの小説のヒロインのモデルなんだ


込み上げてくる感動とか、切なさとか、どんな気持ちで小説を書いたんだろうとか、色んな思いが溢れる。


「万萬詩悠という作家が、結城くんだったとわかった時、全て吹っ切れたの」